私は、バスケットボールを通じて、よく考え、実行する力を持つ選手を育てたい

私は、バスケットボールを通じて、
よく考え、実行する力を持つ選手を育てたい

ディフェンス指導の専門家として活動する大浦宗博コーチだが、「バスケットボールの醍醐味はシュートだ」と語る。オフェンスを基本としながらも、ディフェンスの上達がシュート本数の増加につながることを丁寧に解説し、攻撃と結びつけて守備の重要性を伝えていく。その指導を受けた生徒たちは、オフェンスとディフェンスを垣根なく総合的に伸ばしていくことができるのだ。

数多くの指導者に恵まれた選手時代
『もっとバスケットボールを勉強したい』

「小学校高学年の頃からバスケットボールにのめり込み、各年代で数多くの指導者の方々にお世話になりました。どなたも素晴らしく、すごく恵まれていたと思います。僕にはたくさんの恩師がいるのです」

 そのなかでも、現在の大浦宗博コーチを語る上で欠かせない人物がいる。東京都立駒場高等学校男子バスケットボール部で指導を受けた根本正幸監督(当時)だ。根本監督は東京都内の高校バスケットボール界では知らぬ人のいない名伯楽で、大浦コーチは1-2-2のオールコートゾーンプレスを敷く特徴的なチームでのプレーを通し、ディフェンスへの興味を深めていった。

「先生からはまず『ゾーンプレスはマンツーマンができなかったら機能しない』と教わりました。そして一対一から五人で陣形を組んで守るディフェンスへ発展し、さらに『ノーマークに見せかけてパスを誘い出してパスカットをする』というような、戦術的な考え方も指導いただき、ディフェンスに楽しみを感じるようになりました」

 高校時代の経験は大学時代にも大いに活かされ、体を張ったハードなディフェンスに重きを置き、ディフェンスからさまざまな仕掛けをする神奈川大学のスタイルに没頭した。一貫してディフェンスの重要性とハードワークすることの大切さを教わった高校・大学時代は、2015年に『バスケットボールディフェンストレーニングブック』(ベースボール・マガジン社刊)の監修を担当するなど、ディフェンス指導の専門家として活動する大浦コーチのルーツとなった。大学卒業後には社会人バスケットボールクラブチーム『ファミリー・テンス東京』でプレーをしながら、神奈川大学のアシスタントコーチとしても活動し、プレーと指導の両面でバスケットボールをより深く追求していった。

「社会人クラブチームにはトップリーグでかつてプレーをしていた選手が数多くいて、とにかく一対一が強かったり、シュート力が頭抜けて高かったり、猛者たちに揉まれました。プロフェッショナルなバスケットボールに触れることで、考え直す部分がたくさんありましたね。ひとつひとつのプレーの細部にこだわり、高度な戦術も求められて、知識や考え方をより高められたと思います。神奈川大学のアシスタントコーチは、大学卒業から今も続けている大切な仕事のひとつです」

 当時の生活はめまぐるしかったが、『もっとバスケットボールを勉強したい』というモチベーションがあったので、その日々は楽しいものだった。そんなある日、高校の部活のチームメイトであり、大学卒業と同時にERUTLUCに入社していた関谷悠介コーチから連絡を受けた。バスケットボールの家庭教師の活動についての説明を聞き、夏のイベント『キャンプ』の手伝いに来てくれないか、と頼まれた。二泊三日のキャンプに参加し、それをきっかけに指導員としての活動がスタートした。

ディフェンスの楽しさを伝えるため
攻守を結びつける指導法を確立

 2014年にERUTLUCの社員となり、SSランク指導員に昇格したのが2017年のこと。順調にキャリアを積み上げているが、大浦コーチは今でも「ERUTLUCは自分にとってレベルの高い環境。たくさんのことを学びながら、得た知識をしっかりと理解して、自分らしく指導にフィードバックさせていきたい」と謙虚に語る。常にひたむきで、得意とするディフェンスの指導については思い入れを持って指導にあたっている。

「指導する対象のメインは小学校高学年から中学生。それくらいの年代の子どもたちの多くは、ディフェンスよりもオフェンスが好きだと言います。ときには、ディフェンスを嫌っている生徒にも出会いますね。僕はそういう子どもたちに、ディフェンスの楽しさを伝えたい」

 バスケットボールはシュートを決めて勝利するスポーツであり、試合ではその本数がカギになる。ディフェンスが成功すれば相手チームのシュートの機会を一度奪い、反対に自チームのシュートの機会を増やすことができる。大浦コーチは生徒たちにディフェンスが上達することのメリットを、オフェンスと結びつけて丁寧に説明する。そして、ディフェンスのスキルとオフェンスのスキルの密接な関係を説き、生徒たちの興味を集める。

「オフェンスでは、相手の動きを予測して駆け引きをしたり、フェイントで裏をかいたりすることでディフェンスを攻略しようとしますよね。その作業というのは相対するディフェンスもほとんど同じ、ドライブの方向を読んだり、あえて守備側から仕掛けたりして相手を困らせたりするわけです。そう思えば、ディフェンスもオフェンスと同じくらい楽しいものなのです」

 子どもたちはバスケットボールへの取り組みのどの時点でディフェンスに苦手意識を抱くのだろうか。その究明もミッションのひとつに掲げている。原因を探るなかで、『練習の退屈さ』に思い至った。ボールを扱う練習に比べ、ディフェンスの構えやフットワークを身につける練習は、重要でありながらも好奇心旺盛な子どもにとっては地味でつらいもの。大浦コーチは正しい動きをしっかりと身につける練習だけではなく、対戦形式の練習を多くメニューに組み込むことで、その解消を目指す。

「ディフェンスの所作を身につける時間ももちろん設けるのですが、そればかりでは生徒たちはうんざりしてしまいます。バスケットボールの一部としてのディフェンスを楽しんでもらうために、一対一や二対二、三対三など、より実戦に近づけた形でディフェンスの基本を練習できるように心がけています」

 対戦相手のいる練習は一人で黙々とこなす練習よりもずっと楽しいものだ。練習のなかに勝敗があると子どもは勝利を目指してプレーするようになり、真剣さを保つことにつながる。オフェンスと実際に対峙することで、教わった技術がどのような場面で活きるのか実感できる部分もあるだろう。さらに、大浦コーチの気配りはそれだけにとどまらない。

「ディフェンスに苦手意識を持たれないように、指導中はマイナスの発言を徹底的に排除しています。失敗したとしても『今のはこういうところを直せばもっと上手くいくよ』と、声掛けの質を前向きに心がけています。反対に、ヘルプディフェンスが成功した場面などでは『困っている味方を助けて、良いことしたね!』と、プレーのことばかりでなく、その姿勢も褒めるように意識しています」

 バスケットボールのディフェンスを通して伝える『人を助けること・助けられること』の尊さ。プレーを通して感じとる仲間の存在は、子どもたちの人間的な成長につながっていくことだろう。

特別支援学級の子どもたちと
バスケットボールをつなぎたい

 大浦コーチはERUTLUCに入社する前、小学校の特別支援学級で学習指導員をしていた。キャンプに参加して以来、頻繁にERUTLUCで活動をするようになったものの、入社に至るまでに多少の時間を必要としたのは、特別支援学級での仕事にもやりがいを感じていたからだ。結果的にバスケットボールの指導員として歩むことを決めたが、SSランク指導員となった今、新たな試みとして支援が必要な子どもたちと携わっていく方法について考えている。

「特別支援学級で過ごした七年半のなかで、そこの子どもたちにすごくたくさんのことを学ばせてもらいました。だからこれからは、そういった子どもたちが体を動かしたり、バスケットボールをプレーしたりできる空間を作っていきたいですね」

 そのほか、日常生活でスポーツに関わっていない子どもにバスケットボールの楽しさを伝える普及活動など、次なるトライへ興味は尽きない。しかし、そのためにはまだまだ伸ばしていかなくてはならない部分が残されている。

「小学校低学年やそれ以下の、いわゆるちびっ子の指導は僕にとってまだ未知の部分。目下の目標は、これまでに深く携わってこなかったカテゴリーにも働きかけができるようになることです」

 大きな夢を抱き、その道のりを着実に歩んでいく大浦コーチ。その表情はいつも笑顔だ。

PROFILE

大浦宗博(オオウラムネヒロ)
1983年8月27日生まれ。
神奈川県横浜市出身。
得意指導分野=1on1・
ディフェンス。

詳しいプロフィールはこちら

PHOTO_ 長谷川 拓司  TEXT_ 長谷川 創介

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