NBAコーチが日本の指導者に伝えたいこと

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コーチ向け講習では、アントニオラング氏がNBAチームのアシスタントコーチとして、どのような役割を担い、どのようなことをやっているのか、実例を挙げながら教えて頂きました。
前置きとして、ラング氏は、「NBAと日本の違いや、カテゴリーによる違いも重々承知したうえで、うまく活用できる部分を各々のコーチ陣で見つけていただけると嬉しい。」といった趣旨の話をされました。
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ラング氏のJAZZでの仕事
スカウティング
アシスタントコーチとしての一番大きな仕事は、対戦チームのスカウティングである。JAZZにはアシスタントコーチが複数人いて、それぞれのコーチが違うチームを担当し、それぞれ分析したものを使って、次の対戦における戦術を決定するそうである。ラング氏は、そのスカウティングをする際にどのような部分に注目して分析を行い、スカウティングレポートにしてまとめるのかについて教えてくれた。
(以下はラング氏が作成するスカウティングレポートの順に記されている)

①マッチアップの決定
相手チームのゲームを分析するときは、前シーズンのデータと過去5試合のデータを参考にするそうである。また、次の対戦相手の直近5試合と自分たちとの最後のゲームの計6試合を観て分析を行う。
(ちなみに日本でHCをしていた時も、直近2試合と、自分たちのチームとの対戦試合、そして自分たちと似た特徴のチームとの対戦試合を観て分析していたそうで、当時も6試合くらいは観ていたとのこと。)
そうやって分析した際に、まず初めに決めること、そして非常に重要視している事柄として、マッチアップの決定がある。相手選手のポジションごとのメンバーをまとめ、それぞれの特徴を踏まえてどの選手にどの選手をマッチアップさせるか決定する。また、決定後は、選手たちにそれを知らせると同時に、マッチアップする相手のプレイを編集した映像を見せ、どのように相手を守ればよいか、相手のストロングポイントやウィークポイントはどこかなど、選手たちとコミュニケーションをとりながら確認していく。
(NBAといえど、選手たちのコミュニケーション能力は他と同じように課題があり、ラング氏はこの「問いかけと会話のコミュニケーション」をとても大切しているそうだ)

②3Pシューターの確認
次にチェックするのが、相手の3Pシュートのデータである。全選手の前シーズンの成績、および過去5試合での成功数試投数および確率を表に整理し、3Pをよく打つ選手、そして最近の調子が良い選手を洗い出し、シュートのケアを特に気を付ける選手をピックアップする。

③FT%の確認
3Pシューターの確認と同様、データ収集・整理を、フリースローにおいても行う。これはファウルをするときにどの選手にするのか等、試合終盤での戦術にも影響する大切な要素の一つである。

④ポイントプロダクション
相手チームがどのように点をとっているのか、その方法と割合を分析・整理すること。また、その方法(たとえばペネトレーションによる得点)がNBAのチーム全体でどのくらいの順位に相当するのかも、合わせて確認する。
例としてラング氏がお話してくれたのが、メンフィス・グリズリーズにおける分析である。グリズリーズは、ガソル、ランドルフといった強力なビッグマンを擁し、インサイドでの破壊力が抜群のチームである。そのポイントプロダクションを分析したところ、得点の約47%がペイントエリアからの得点になっており、また、3Pのリーグ順位を確認するとワースト3になっていた。これを踏まえてラング氏は、グリズリーズのペイント内へのオフェンスをどう守るか、ということを戦術の方針として立て、そこから出てくる細かな戦術の一つの例として、アウトサイドへのクローズアウトは浅めに行い、シュートチェックよりもペイントエリアへのアタックとパスを止めることに注力するという方法を選んだそうである。

⑤チームスタッツのリーグ内順位
相手チームのスタッツ(得点、アシスト、リバウンドなど基本的なものから、得点期待値などの応用的なものまで)が、リーグ全体のどの位置、順位になるのかを整理して、大まかなチームの特徴と抑えどころを見て分かるようにするそうである。

これらのことを整理し、最後に自分が実際のゲームを観て気付いたことを、どんな些細なことでも記録し、まとめてレポートに記しておく。

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ゲームプランを立てる
スカウティングとその整理が終わったら、実際にどのようにして相手チームと戦うのか、戦術・ゲームプランをたてる。先の例をそのまま使って、グリズリーズを相手に、どのようにして強力なペイント陣を擁するチームを攻略するかについてのプランをお話してくれた。

まずは、ゲームテンポの決定である。グリズリーズは、インサイド陣を活用するので、比較的スローテンポなゲームをするチームである。そのテンポを掴ませないため、また、インサイド陣の準備が整う前にオフェンスをするために、速いテンポのゲーム展開にすることを決める。
次に、オフェンスではボールをよく動かすこと。相手インサイドのDFがしっかり準備された状態だとゴールにアタックしにくくなるので、ボールをしっかりと動かし、ヘルプDFに的を絞らせないようにしながらOFを行う。
また、メンフィスには強力なインサイド陣に加え、ピックプレイの上手いマイク・コンリーという選手がいる。そのコンビネーションを止めるために、どのようにしてピックプレイを守るかということも決めておく。
そしてなにより、脅威となるのは先にも上げたランドルフ、ガソルの2人のインサイドプレイヤー。このような他より抜きん出た選手に対しては、個別に守り方を考える必要があるそうで、その選手のOFの仕方、多用するスキル、特徴などを踏まえて、どのような守り方をするか考えておく。
(ここで考えたものを、上記のマッチアップの決定後に、マッチアップする選手に伝えるようにする)
ここではメンフィスの強みに対してどのように対応して戦うかという個別的なことについて紹介してもらったが、これに加えて、分析結果を踏まえて毎回決めるチーム戦術の項目がある。それが下記である。

1:トランジションDF
2:ポストDF
3:ピックアンドロールDF
4:小さい選手同士のピックアンドロールに対するDF
5:ドリブルハンドオフへのDF
6:オフボールスクリーンへの対応
7:End of Q, End of Gameの守り方

などである。ここでは、この中の「トランジションDF」「ピックアンドロール DF」について、お話していただいたことを記す。

ディフェンス
トランジションDFについて
・ボールをピックアップする位置
相手選手の特徴(特にボール運びをする選手)を踏まえて、どの位置でボールマンを捕まえるか決定する。これは、チームの基本となる位置があり、そこから相手の特徴に応じて微調整するという形で決定される。JAZZでは「3Pラインの2歩手前」をピックアップのベーシックな位置として設定して、そこから相手によって調整される。
・ビッグマンウォール
ボールをピックアップする位置、というのが主にアウトサイドプレイヤーのDF戦術だとしたら、これはその名の通り、インサイドプレイヤーのDF戦術である。ビッグマンは、相手選手にボール運びからそのままアタックされるのを防ぐために、ボールとリングの間に2人で壁を作るように戻り、トランジションでそのままやられないようにする。

・ピックアンドロール DFについて
いまやピックアンドロールを使わないチームは皆無であるNBA。JAZZではそのユーザー側のDFと、スクリナー側のDFそれぞれに、簡単なルールとその順序を設定し、チーム戦術として持っているそうで、今回はボールマン側のDF「L O L A」と、ビッグマン側のDF「L U L A」という守り方を紹介してくれた。
実行すべき事柄とその順序をチームで決定して、合言葉のように使うことで、どのような戦術でDFをするのかが共通理解としてチームに浸透すると考えられる。

ピックスクリーン

また、DF戦術をたてる際は、相手チームの全部のプレイを止めるようとするのではなく、相手が頻繁に行い、起点になるようなプレイを3つ程度ピックアップして、それをどのように止めるかをブレイクダウンして考えるそうだ。
例としては、ピンダウンスクリーンから相手の様々なオフェンスが始まっている場合、その個別のケース一つ一つに対応策を考えるのではなく、ピンダウンスクリーン自体を止めたり妨げたりする方法を用意し、練習で準備をしていくといったことである。

これらの分析を踏まえて、試合前の練習では、分析した個所のポイントになる点を2~3人の形で分解練習し、その後5人のウォークスルーで全体での戦術を確認、そして5on5を行い、シューテイングを行う。

先にも述べたが、チームにはアシスタントコーチが複数人おり、それぞれが異なるチームの分析を行っている。ラング氏はグリズリーズのほかに、スパーズやウォーリアーズなどを担当しており、本当に大変であるという趣旨のことを笑いながら話していた。ただ、その分析をコーチミーティングでプレゼンするとき、ラング氏の立てた戦術の多くをヘッドコーチが採用してくれるため、そこにやりがいと強い責任感をもって仕事に取り組めているそうである。

次に、スカウティングではなく、選手指導におけるラング氏の仕事について紹介する

3、プレイヤーへの個人対応(指導を含む)
スカウティングと同様、各アシスタントコーチにはチーム内で担当する選手が割り当てられており、その選手がチーム内の役割を実行できるようにプレイ面で指導していくのが、アシスタントコーチのもう一つの仕事。
個人指導で行う練習内容としては、選手のレベルアップに繋がるプレイの中で、チームがその選手に求めているものと合致する内容のものをトレーニングする。また、その選手の役割を理解させるために、映像を編集して、「どのようなプレイをしてほしいか」という形で選手にプレゼンを行うこともあるとのこと。
とはいえ、NBAはプレイオフも含めると1シーズンで100試合近く行う過酷な日程であり、移動日もあるうえに、毎試合ごとにチーム練習で行うことも変化するので、個人指導を行えるのは一回約15分間だけである。
ただそれを、チーム練習の前、チーム練習の後のシューテイングの時間、試合前の15分×3回の機会を使って、次の試合に選手に求められているプレイを教え、質を向上させていく。

ラング氏はビッグマンを担当することが多いそうであるが、実際にどのようなことを指導しているのかについても、オフェンスの仕方を例にお話してくれました。ゴールに背を向けてボールをもらった時に、DFの何を見て感じて判断し、どのような動きをすればいいのか。~だったら○○、~だったら××、などというように、求められているプレイの具体的な方法をしっかりと整理をし、指導をすることが大切であるとラング氏はおっしゃっていた。

また質疑応答の中で「選手への指導の際に、選手側からこんなプレイがしたいなどと言った要望がでてきたらどうするのか」という質問があった。それに対してラング氏は、チームが求めていることが一番だと言いつつも、データの分析結果を見せた上で選手と相談し、それでも納得してくれない場合は「自分を信じてほしい」と説得をすることで、選手たちとの関係をうまく保ちつつ、チームの中の役割を実行してもらうように働きかけているそうだ。

今回の機会では、めったに聞くことのできないNBAの中の世界で、どのようなことが実際に行われているかということについて、実例を用いながら多くのお話を聞かせていただいた。座学の中には編集したビデオの一部を見ることができ、また座学後には、座学で説明したことをコート上で実際に見せてくれるなど、とても内容の豊富な講習をして頂いた。質疑応答の時間にも多くの質問がよせられ、ラング氏はその一つ一つを丁寧に聞き、理解を示しつつ、自分の考えや解決策を話してくださり、その人柄にも触れることができました。(文 四倉大地 指導員)