デイブ・テイラー氏指導者講習会レポート【後編】

アメリカバスケット界の光と闇

2016年3月30日(水)、4月3日(木)にアメリカでプロコーチとして活動されるデイブ・テイラー氏(Dave Taylor)をお招きし、特別クリニック(3/30)及び指導者向け講習会(4/3)を開催しました。

デイブ氏はアメリカバスケット界への警鐘を鳴らした書籍『THE A.A.U WASTELAND』の執筆、NBA選手主催のキャンプディレクター、NCAAのリクルート担当者も数多く訪れる大規模なトーナメントの運営など、様々なアプローチでバスケットボールの普及に携わり活躍されています。

前回のレポートではデイブ氏がメンターと崇める伝説の指導者ジョン・ウッデン氏のエピソードを交えながらデイブ氏が考える理想のコーチ像をご紹介しました。

今回のレポートではデイブ氏が問題視しているアメリカバスケット界が抱えている問題点についてご紹介していきながら、日本の指導者たちはそこから何を学んで行くべきなのかを考えていきたいと思います。

(あくまで本レポートは講習会で述べられたデイブ氏の意見を可能な限りそのまま公開しているためデイブ氏の個人的見解が多分に含まれています。予めご理解の上、お読みください。)

アメリカのAAUシステム

AAUとはアマチュア・アスレチック・ユニオンの略で、バスケだけでなく様々なスポーツの競技会を開催している団体のこと。バスケットボールでもシーズンオフにジュニア期の優れた選手たちが選抜チームを組んで試合ができる環境を作っている。なのでアメリカでは12月~3月までが学校でバスケをする時期、それ以外がAAUとしてバスケをすることができる時期となっている。
最近ではこのAAUの活動が盛んになり、産業として非常に大きく成長してきている。その為、AAUが将来有望な選手たちの有力なリクルート現場としても使われている。

デイブ氏がアメリカバスケット界への警鐘を鳴らした書籍『THE A.A.U WASTELAND』の中で問題提起しているのは、ずばりこのAAUというシステムである。その理由はいくつかあるが、まず第一にAAUには金儲けのために活動する人や、社会のためにならない活動をする人(非社会的組織)が関わっていることも多い。そのような人がはびこっているのは本当によくないと常々話していた。

AAUシステムの闇 その①

AAUのコーチになるためにはテストがあるがオンラインで誰でも受けることができ、少し勉強すれば合格できてしまうレベル。なので実際のところ犯罪をしていない人であれば誰でもAAUのコーチになれてしまう現状がある。そのためコーチの質は必ずしも高いとは言えず、AAUの大会に参加すると子どもたちは誰も見てないところで好き放題やっている。

コーチは子どもたちが何をしようと関係なく、チームさえ勝てばコーチとしてステップアップできるというメンタリティの人たちも大勢いる。その為、自分のチームを強くするために競技力の高い選手にコーチがお金を払って、その選手をチームに招きいれることもしばしば行われている。それは選手を成長させるためではなく、コーチが勝ちたいからであり、勝つためには何でもしてしまう人がいる。

この傾向は競技レベルが高くなればなるほど顕著になってきている。

AAUシステムの闇 その②

なぜそのような状況に陥ってしまっているかというと、それらのコーチが考えていることはAAUのコーチから大学バスケのコーチにステップアップすることだからである。その証拠に、例えば大学のあるチームが有望な選手をリクルートする際にその選手が在籍するチームのコーチは大学へある条件を提示する。それは選手をリクルートしたいのならコーチである自分も一緒に大学のアシスタントコーチをして雇うことを要求し、無理矢理大学チームのコーチングスタッフにステップアップしようとする。全てのコーチがそうしているというわけではないが、コーチ自身のステップアップのために選手を利用するという悪質な問題が増えてきている。

本来ならば、教育学を専攻しバスケ以外でも成長できるようなカリキュラムでコーチ育成ができれば良かったが、そのようなシステムではないためこういった現状となってしまっている。

アメリカでの学びの環境

もちろんアメリカのバスケットボール界には選手が成長していくために光となる部分も多い。例えばアメリカでは24時間テレビでバスケットボールの試合を観ることができ、知識豊富な解説者のコメントを聞くことでも選手は学ぶことができる。選手もコーチも全員がバスケの試合をテレビで観ているので、翌日の練習では、前の日の試合を題材にしながらコーチが選手にプレイの質問したり、勝敗を分けた要因をチームで共有し、自分たちのチームに生かすことができる。

特に選手が注目すべきはベテラン解説者の戦術についての説明であったり、考え方であって、すごいプレイを観て真似することではない。より良い選手のより良いプレーに繋がる判断となる要因を理解し、なぜそのプレーになったのか一連の動きを知り、自らが表現できるようになることが大切である。

日本人選手の今後の鍵となるもの

デイブ氏は日本人の子どもたちのスピードとフットワークについてはかなり良いものを感じたとのこと。それに加えて日本の子どもたちに身につけて欲しいものは、「リングへアタックするマインド」である。

日本の子どもたちはコンタクトを嫌がり、接触をかわすプレーが多く、力強くプレーすることが少ない。
アメリカでは公園や広場にリングがあり、そのリングを使うために子どもでも大人に対して勝負して勝たなければいけないし、審判もいないその中で勝負するしかない状況から自然とアタックマインドが身についている部分がある。日本でもそうゆう世代を超えた中で上の世代にアタックする機会を増やしていくことも一つの鍵となるはず。
また、ゲームを観て学ぶこと。観て学んだことをコートの中で試してみること。練習場所が少ないならば、観て学ぶ時間を増やしていくことが一層大事になる。

選手自身が考えてプレーする

試合中にタイムアウトを多くとるコーチは仕事をしていないと言える。なぜならタイムアウトは選手自身がゲーム中に起こる困難な状況を乗り越えることができないためにとるからである。予め練習の中でそうゆう状況が起きた時にどのように対処するか?という準備を事前にしておかなければいけない。その為には試合の中で起こりうる様々な状況を意図的に創りだし、練習の中で選手自身が考えるための時間を作り、次の試合のゲームリーダーを決め、試合に向けたゲームプランを考えさせるなど、様々な準備をしておく。

また、実際の試合中でもタイムアウトの時にゲームリーダーが話しをする時間を作るなど、選手が考えてプレーする機会を意図的に作り出すことが大切である。もちろん一人の選手だけでなく、たくさんの選手に対して考える機会を与えることでチームとしても統率が取れてくるため、コーチも試合中のタイムアウトでは大事なことだけを伝えられる。
繰り返しになるが、「選手自身で考え、問題を解決できるようにしておくという準備」が大切である。

今回の指導者講習会ではデイブ氏の指導者としてのロールモデルであるジョン・ウッデン氏とのエピソードとアメリカバスケットボール界の光と闇という内容で様々なことを語って頂きました。講習会の参加者の皆さんからもたくさんの質問が寄せられ、それら一つ一つに丁寧にお答え頂きました。
またこのような機会を設け、日本の指導者の方々の学びの場を創出してまいります。

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