恩返しではなく恩送りを
『ギブ&テイク』
この言葉は誰もが一度は聞いたことのあるものではないでしょうか。
言葉の意味としては世間一般で考えると、何かを与えたらその代わりに何かをもらう、何かをもらった代わりに何かを与えるといったものです。
- 「自分はこれだけ努力をして練習をしたから、試合に出してもらえる」
- 「今月はたくさん働いたから、その分賃金をもらえる」
- 「たくさんお世話になった分、その人のために力を尽くす」
- 「嫌なことをされたお返しに嫌なことをやり返す」
- 「バレンタインにチョコレートをもらったからホワイトデーにお返しをする」
このような対等な互助関係を『ギブ&テイク』と言います。
皆さんの身近でも頻繁に行われていることですね。
これはどちらか一方が損をすることや得をすることがないので、良好な関係を保つことができると考えることができます。
実は、世の中には3パターンの人がいます。
「ギバー」
「テイカー」
「マッチャー」
の3パターンです。
『ギブ&テイク』の考えを持つ人は「マッチャー」と言えるでしょう。
「ギバー」は人に惜しみなく与える利他的な人。
「テイカー」は真っ先に自分の利益を優先させる利己的な人。
「マッチャー」は損得のバランスを考える人です。
では、なりうる最高の自分に近づくことができる人、人生をより幸福なものにしていく人はどの考え方を持つ人なのでしょうか。
ペンシルバニア大学ウォートン校の組織心理学者のアダム・グラントという人がこの3つのパターンについてどのタイプの人が最も仕事の成果が良いのか、または悪いのかを調べました。
その研究で分かったことは、最も高い成果を出したのが「ギバー」だった、つまり、与える人だったのです。
一方で、最も仕事の成果が悪かったのも「ギバー」という調査の結果が出ました。
ギバーの特性を持つ人は、自分の利益や相手の利益を考えるというよりは、全体の利益を考えます。
1枚のピザがあったとしたら、それを大きくしたり、増やしたり、具材を足したりして全体をどれだけ大きくさせられるかに関心があるのです。
6つに切り分けられたピザを自分がどれだけ多く取ることができるかと考えるテイカーや、1つ取ったら1つ与えたり、1つあげたら1つもらうことができると考えるマッチャーの、限られたものを取り合う考え方とは大きく違ってきます。
『テイカー』は、自分がどれだけ取れるかで行動を変えます。
最初は自分が有利になる状況を作り出すので短期的には高い成果を出します。しかし、長期的に見るとそれは徐々に敬遠されていくため、仕事のパフォーマンスは下がっていきます。
『テイカー』のバスケットボール選手というのは、
「とにかく自分が上手くなればいい」と考えるため、チーム全体が向上していくことには興味がありません。
後輩達を育てることにも興味がありません。
もし後輩達に教えることで自分も上達すると知っている選手であれば、教えることができるかもしれませんが、それは全て「自分が上手くなるため」です。
短期的に活躍したり、成果を上げることはできるでしょう。
しかしそれを続けた結果、チームからの信用は薄く、チームの利益に貢献できなかったり、もっと上手くなれる可能性を自ら削ってしまうことになるのです。
そして、チーム全体であげた利益を分かち合う喜びを知ることはできないでしょう。
では『マッチャー』はどうでしょうか。
この考え持つ人は相手によって行動を変え、仕事を順調に進めていきます。
相手が手伝ってくれたら自分も手伝う、自分が手伝ったら相手も手伝ってくれることを期待するという関わり方でパフォーマンスを維持します。
マッチャーは中期的には人間関係において成果を上げる可能性があります。
しかし、結局のところ相手が手伝ってくれなければ自分は手伝わない、自分が手伝ったのに相手は手伝ってくれないといった関わり方になるため、それ以上の良好な人間関係を作り上げることが難しくなってきます。
『マッチャー』のバスケットボール選手というのは、
「私が良いパスを出したから、あなたはシュートを決めてね」
「あなたが良いパスを出してくれたから、私は絶対にシュートを決めよう」
というキブ&テイクを考える傾向にあることから、自分が与えた分成果を上げるように期待したり、受け取った分成果を上げていこうとしていきます。
こういったやりとりは、お互いが向上していくためには必要なことかもしれません。
やりとりの裏を返すと、
「私が良いパスを出したのに、あなたがシュートを決めてくれない」
「あなたが良いパスを出してくれないから、私はシュートを決めることができない」
といった他人のせいにしてしまうような考え方になるでしょう。
これではチーム全体で高い成果は上げていくことができません。
結局人の行動によって自分の行動を変えていくので、取引の上での信頼関係を築くことになり、お互いの信頼関係は不安定なものとなっていきます。
ギバーの特性を持つ人は、自分が与えることで全体を良なっていくということを知っているので、与えることで短期的には自分のパフォーマンスが損なわれるように見えても、そうした行動が人からの信頼を得て、人脈が広がり、チームが向上していくのに併せて自分自身の成果も大きくなり、長期的な成果を上げていきます。
お世話になったことに対して感謝の気持ちから恩返しをすることはとても大切なことです。
しかし、「自分が何かをしてもらったから…」というマッチャー的な考えから、「自分から与える」といったギバー的な考え方にしてみると思ってもいなかった成果が上がるかもしれませんね。
何かをしてもらうことを待つのではなく、自分から与える「恩送り」をすることで自分にとって大切何かを手に入れることができるでしょう。
しかし、ギバーの見返りを求めないで与え続けるということに対するモチベーションはどこから来ているのでしょうか。
ギバーのモチベーションはきっと、そこにあるモノではなく、幸福感なのでしょう。
今回は、最も高い成果を上げる「ギバー」についてのお話でした。
次回、最も成果が悪かった「ギバー」についてお話していきます。