勝利の追求と育成の追求
みなさんには生まれた時から授けられている4つの側面があります。
「肉体的側面」
「精神的側面」
「知的側面」
「社会・情緒的側面」
これらは自分という最も大切な資源をつくり上げているものです。
この4つの側面すべてを磨くとなると、中々時間がかかりそうですね。
自分磨きに時間をかけることは必要だけれど、どれかひとつ疎かにしたとしても他の側面をしっかりと磨いていけば十分効果が出るのではないか…と。
実は、どれかひとつの側面でも疎かにしてしまうことで、自分をつくり上げている資源の残り3つの側面すべてに悪影響を及ぼすことになるのです。
考えてみましょう。
肉体のメンテナンスを怠り健康状態がおもわしくない時、人に親切にすることや、知性を磨いたり、人と関わり情緒を磨いていくことは難しくなるでしょう。
知性を磨くことを怠れば、重要事項を優先することができずに重要事項である他の3つの側面を効果的に磨いていくことができないでしょう。
社会・情緒的側面を磨くことを怠るのは、人との良い信頼関係を築き上げることを疎かにしてしまっていることになります。
それは、そもそも自分が生きにくい環境を作りだしてしまっていることになりますし、精神の安定を保つことが難しくなるでしょう。
そして、精神を磨くことを怠るということは、自分の中心となるもの、価値観を疎かにしてしまっているということになります。
精神的側面というのは他の3つの側面の要となり、基礎になるものなので、それを怠ってしまうことで自分の目的が曖昧になってしまうでしょう。
車の4本のタイヤの一つがすり減ってしまっていると、車自体がうまく作用しないように、人間が持つ4つの側面の一つがすり減ってしまっていると本来の能力が発揮できないのです。
書籍『7つの習慣』の中では、「これらのことは個人の生活だけでなく組織についてもいえることである。」と記されています。
組織にとって肉体的側面にあたるものとして「経済的側面」、知的側面は「人の才能の開発・活用・評価」、社会・情緒的側面は「人間関係・利害関係者との関係・従業員の扱いなど」、精神的側面は「組織の目的・貢献の意味の発見」としています。
個人と同様、組織においてもこの4つの側面のうちいずれか一つでも疎かにすれば、組織全体に悪影響を及ぼすことになるのです。
私たちが持ち合わせているはずの創造的なエネルギーは大きな相乗効果を生み出す土台になるはずなのに、それがかえって組織に対して、反発し、成長と生産性の向上を妨げるものとなってしまうということです。
バスケットボールのチームで考えてみると、「経済的側面」は「勝利」と似ているものがあります。
「勝利すること」だけを考え、その他の側面である選手の才能の開発や教育、人間関係、他チームとの関係性、チームのミッションステートメントを疎かにしてしまうと、このチームの文化の中には大きなマイナスの相乗効果が働いてしまうのです。
選手達の中で足の引っ張り合いや防衛的コミュニケーションが繰り広げられたり、燃え尽きてしまう選手が出たりと、勝利だけを追い求めることはチームにとってマイナスの相乗効果を生み出すことになるでしょう。
また、経済的側面である勝利のことは考えず、社会・情緒的側面のことだけに集中している「勝利を考えない育成主義のチーム」の場合はどうでしょうか。
まず、勝利を考えないということは競争をやめることになります。
スポーツや遊びの本質の中にあるのは「競争する」ことですが、そこから外れていくことになります。
活動の効果性を図る尺度もなく、その結果能率が下がり、やがてチームとして活動する力を失くしてしまうでしょう。
そして、競争することは選手の成長に大きく関わります。
選手達が成長していくことがチームが繁栄することにつながっていき、成長すると勝利に近づいていくという成長の本質からずれていってしまうのです。
「勝ちを追い求める」「勝ちを追い求めない」このどちらかが良くてどちらかが悪いということではありません。
勝利することなしでチームが繁栄していくことはできませんが、それだけではチームという組織の本来の存在意義にはなりません。
勝利することは選手達にとって必要です。しかし考えなければならないことは、勝利するためだけにチームでバスケットボールをしているのかということです。
自分磨きのプロセスを効果的に行うためには、人間が持つ重要な能力である4つの側面「肉体」「精神」「知性」「社会・情緒」全てにわたってバランスよく磨いていく必要があるのです。
この4つの能力全てをバランスよく磨いていくことによって、はじめて効果をもたらすことができます。
バスケットボールは選手達へ指示を出せる機会が多かったり、コーチの声が選手に届きやすいこともあることから、選手にとってコーチの存在や影響力が大きいのかもしれません。
選手達に長期的な効果をもたらしていくためにも、私たちバスケットボールのコーチは4つの側面をバランスよく磨いていける組織をつくっていくことが大切になるのではないでしょうか。
個人でも組織でも、この4つの側面すべてをミッションステートメントに意識的に取り入れていけば、バランスのとれた自分あるいはチームを磨いていく強い土台ができるでしょう。