日本とヨーロッパの育成環境の違いについて、今回も「経験の質と量」の違いに注目して考えてみたいと思います。
前回は「年代の分け方」についてご紹介しました。
各年代毎にチームを作ることで、空白の年代、経験が積めない年代が少なくなるため、全体的に経験の量が増えるのだと思います。
今回のテーマは
「1チームの人数制限」についてです。
(2)1チーム12名という人数制限
リッキールビオが育ったジュベントゥというクラブも、先日日本に来てくれたセルヒオ達のエストゥディアンティスも、1チームは12名までだそうです。
つまり、同じ学年に20人の選手がいるなら、2つのチームに分けます。
45人いるなら、4~5チームにチームを分けるのです。
カンテラと呼ばれる12歳以上の各年代のトップチームは、そもそも12名以上はセレクションしないようです。
スクールなどで人数が増えてきたら、それぞれレベル毎にチームを分け、それぞれの力に合ったリーグ戦に登録するそうです。
それでは、このシステムが持つメリットについて整理してみたいと思います。
①練習効率があがる
12名という人数は一番ドリルのオーガナイズがコントロールしやすい人数です。
2人組、3人組、4人組、6人組、色々な組み合わせで練習できます。
一つのチームに30人、40人いて、練習の待ち時間が長かったり、そもそも練習に参加できない選手が出てしまうということがなくなるのがメリットです。
②フィードバックの適切な量の確保
心理学の何かの資料で見たのですが、ひとりの指導者が適切な量のフィードバックを与えることが出来る最大の人数は12名の選手までだと書いてありました。
そもそも記事の出所も分からないですし、何をもって適切とするかという議論もあると思うので数字の正確さは何とも言えませんが、僕の経験則で言っても12名以上になるとあまり声をかけてあげられない選手が出てしまいがちです。
それは、手とり足とり教えてあげるという意味ではありません。単純にコミュニケーションの量が十分にとれるのは12名くらいが限度な気がします。
③指導者の経験値の総量が増える
とても優秀な指導者のところに何人でも選手が所属していいというルールだと、優秀な選手の多くがその指導者のところに一極集中するような力学が働きます。
指導者は選手との出会いで成長できるという側面もあるので、情熱と勤勉さを持ち合わせた選手達に若い指導者が出合いにくくなったりすることも出てきます。
また、単純計算でチーム単位数が増えることで、ベンチワークを経験する若い指導者も増えることになります。これは良いも悪いも指導経験値の総量を増やすことにつながります。
では、デメリットは何でしょうか。
①指導者数が足りない
そもそも、チームを分けたくても指導者がいなければ意味がありません。
このシステムが機能してくればもっと指導者として活動する人材が増えてくる可能性もありますが、鶏が先か卵が先か、このシステムを採用するうえでもやはり指導者の育成、人材を増やしていくことは急務だと思います。
②練習場所のマネジメントが難しくなる
前回の学年ごとのチーム分け同様、チーム数が増えれば練習時間の分配が必要になってきます。
今まで20人で3時間練習してきたチームは、10人数2チームに分けて1時間半ずつの練習時間にするわけです。
日本の指導者の方々とこのケースについて話をしていると、多くの場合この二つのケースなら20人で3時間練習する方を選ぶと言われます。
確かに、勝利を目指して練習するうえで、上級者の練習時間を多めに確保できる可能性が高まるので、こちらの方がいいマネジメントになりえます。
しかし、ヨーロッパでは大人数で長い時間練習することを選ばずに、短い時間で効果的、効率的な練習をすることを選んでいるのです。
もちろん、国民性として練習が退屈ならあからさまに嫌な顔をする、クラブを辞める、といったことが出来てしまうから、そうならないように工夫してるというだけかもしれません。
日本なら、多少退屈でも、試合の出番が無くても、選手は辛抱するでしょうし、それも素晴らしい国民性だと思います。
この議論の争点は「経験の質と量」です。
「経験の質と量」という観点で考えると、やはり12名以内の人数でチームを分け、各チームに指導者がつき、時間が多少短くなっても効率よく効果的な練習を行う方がジュニア期の育成には価値があると思います。
3時間の練習時間を1時間半ずつに分配するというのも実は短絡的で、実際のヨーロッパのクラブでは、コートで練習できない時間に別な部屋でコーディネーショントレーニングやストレングス系のトレーニングを行っていたりします。
そういった練習環境のマネジメントでも工夫の余地はたくさんあるのです。
ジュニア期の指導現場に携わる人間の創意工夫で、たくさんの子ども達に経験の質と量を高めていくことが可能になるのです。
③試合の機会
単純にチーム数が増えると試合の機会も増えなければなりません。
スペインでは各年代ごとに、レベル分けされたリーグ戦が組織されているので、チームを分けるとそれぞれのチームのレベルにあったリーグに登録します。
その結果、常に拮抗した面白いバスケットボールの試合を経験できるのです。
こういったリーグ戦を各地で組織できるのかが、このシステムを採用していくうえで鬼門になってくると思います。
次回、この「リーグ戦」という試合形式について考えてみたいと思います。
なぜ日本はトーナメント形式の大会しかなく、ヨーロッパはリーグ戦形式の大会が多いのか。
これも、経験の質と量をキーワードに紐解いてみたいと思います。