第363号 感情移入して聞くことと自叙的に聞くこと
「自分のことを理解してもらいたい。」
これは、誰もが持ったことのある感情でしょう。
リーダーシップを発揮する時にも、チームメイトから理解されるというのは必要なことです。
自分のことを理解してもらいたいのであれば、まずは相手のことを理解しようとすることが必要であり、
そして相手を理解しようと思ったら、”感情移入して聞く”レベルで相手の話を聞けることが大切になってきます。
しかし、話を聞いているときに、
『答えようとして聞いている』ことはありませんか?
根本は『理解しようとして聞く』ことではありますが、
自分の価値観やパラダイムというフィルターを通して相手の話を聞き、
自分の中に相手を写し込んで聞いてしまっていることが多いのです。
このように、自分の過去の経験に基づいた『自叙的』な聞き方では、相手を理解することが困難になるでしょう。
話している相手が心から打ち明けようとする空間を作ることができないのです。
相手との信頼関係を築き、理解して理解される関係を作るためには『感情移入をして聞く』ことが大切であり、
そのためには『相手の立場に立って物事を眺め、相手の気持ちを感じて聞ける』ことが必要です。
そして、相手の立場に立つ時には、自分の価値観や、パラダイムというフィルターを外して相手の話を聞くことが重要なのです。
相手の話を『自叙的』に聞いている人は、多くの場合、次のような返答をします。
- 評価するー賛成するあるいは反対する
- 探るー自分の観点から質問する
- 助言するー自分の経験に基づき、助言、アドバイスを与える
- 解釈するー自分の動機や行動を基に、相手の動機や行動を捉え、解釈し、説明しようとする
『あなたの気持ちはよくわかる』
という返答をすることがあるでしょう。
この返答は、『自叙的』な聞き方になります。
また、
『同じ経験をしたことがあるな。その時には…』
といった自分の経験に基づいた返答も自叙的な聞き方になります。
自叙的な聞き方は相手の考えや感情、動機などを自分のパラダイムというフィルターを通して勝手に解釈します。
答えること、相手をコントロールすることが目的になってしまうことにより、相手は反発的になってしまうでしょう。
例えば、『探る』聞き方をすることは、用意しておいた答えに人を誘導するようなものであり、相手をコントロールし、心の中に無理やり踏み込む聞き方です。
人はコントロールされていると感じれば強い反発を覚えてしまうのです。
『評価をする』聞き方はどうでしょうか。
相手が本当に訴えたいことを言い終わらないうちに評価を始めてしまったら、心から打ち明けようとする開かれた空気を感じられるでしょうか。
自分の持つパラダイムの中で相手の話を聞くことで、相手のことを理解できるのでしょうか。
それに対して、感情移入をして聞くということは、相手の立場に立って相手を理解しようと努めています。
そうすると話し相手は自分の思いや気持ちを振り返り、整理していくことができます。
そして、自分の考えていることを打ち明けることのできる空間ができ、お互いの信頼関係が生まれていきます。
「自分は相手を助けたい、どうにかしてあげたいという気持ちで聞いているのに、私の話が伝わらない…」
相手を助けたいという善意があることは間違いありません。
そのため助言をしたり、自分の経験談を話したりするでしょう。
しかし、このような時に考えなければならないことは、あなたが相手のことを本当に理解しているのかどうかということです。
相手が心の中を打ち明けられる空間を作れているでしょうか。
相手の話を聞く時に、本当の問題に向き合っていなければどんなに優れた助言でも意味がないのです。
時には、自叙的な聞き方をする必要もあるでしょう。
感情移入をして聞き、相手から自叙的な返答や助言を求められることもあります。
大切なのは、心の底から相手を理解しようと聞いているかどうか。ということです。
人は外からの助言は必要としていないのです。
心の中を打ち明けることができさえすれば、自分の問題を自分なりに整理し、その過程で解決策が明確になっていきます。
答えは自分の中で持っているのです。
自分のメガネを外し、相手の見地に立って相手の観点から世界を見ると、コミュニケーションの質が変わることが実感できるでしょう。
次回、感情移入をして聞くスキルを紹介します。