JUNIOR BASKETBALL SUMMIT 2019 レポート【特別講習】

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講師について

塩野竜太コーチ

アルバルク東京アカデミーマネージャーとユースチームU15ヘッドコーチを兼任。

アルバルク東京ユースはアルバルク東京の育成チームであり、トップアスリートの育成を目的として活動しています。

アカデミーの指導理念として、いまチームが強くなることよりも将来的により良いアスリートになるために大切なことを優先し、「バーンアウト」や「オーバートレーニングによる慢性傷害」等のジュニア期の問題の発生を予防しながら将来的な競技力を最大化することを目指しています。

また、長期的な競技力向上の原動力は選手の「バスケが楽しい」という気持ちであると捉えており、選手が夢中になってバスケと向き合うことができる環境をつくることが最も重要な仕事だと考えているとのことです。


アルバルク東京ユースチームの方針と背景

【ユースチームの方針について】

アルバルク東京ユースは設立当初から中学校部活動や他チームとの2重登録を採用せず、クラブが主体となって選手育成に取り組んでいます。

ユースチームは原則、新中学1年生のみの入会としています。

その理由の一つとして、部活動との並行ができる現制度の中、移籍等が起こらないようにしたいと考えたこと、そして育成という面で考えた時に、今、チームとして強くなり勝つことよりも、長い時間をかけて選手と関わって選手たちの変化と成長をサポートしていくことを主旨としています。

【背景】

塩野氏は中学生のころから指導者を志し、高校、大学ともに体育科に進学。

高校生の時にオーバーユースが原因の故障に見舞われ、バスケットに対する意欲も中学生の時よりも低くなっていってしまいました。

その中で自分がどのように対応するべきか見いだせず、意欲の低下というバーンアウトを経験しました。

このときにはすでに指導者を志しており、これまでの経験から複雑な思いを抱えていました。

学業や学生コーチとしての経験を通じて指導者やスポーツについて深く考えさせられることがあった中で、

まずは自分の専門としているバスケットボールを突き詰める必要があり、自分なりの武器を身に付けたいと思い、バスケットボールの指導者を志そうと思いました。

そして時間を経て、アルバルク東京のスタッフとして、戦術等に関して主に分析をする仕事に就きました。

塩野氏は、戦術を分解し、それをパターンに分けて細かく調べ上げて物事を決めていくことがとても好きで、それが試合に大きな影響を及ぼすと考えていましたが、

実際にはチームの勝敗、チームの競技力向上に関して自身が考えていたほど大きな影響を及ぼせていないと感じたのです。

それより、選手同士のコンビネーション、暗黙の了解、ひらめき、言葉では説明の仕切れないようなもの、集団での学習により蓄積されていくようなものにもっとフォーカスしていくことが必要だと気づきました。

分析は必要なことではありますが、それよりもっと大切にしなければいけないことがあるのでないかと考えたのです。

また、近年のコーチングの傾向として、ITの発展により情報を得ることが容易になったことを背景に、方法論やシステム、テクニックを学び、これらを勉強したり教えたりしたときに何か明確なことをやったという気になりやすいのではないでしょうか。

もちろん有効なことであると思いますが、本質的にどうなのかと疑問を抱きました。

これらのプロクラブでの分析担当としての経験を通じて抱いた疑問から、選手個人の学び、時間をかけて共プレーすることによって培われるチームワークというものに焦点を当てていくべきではないかと考えました。

ここのような思いを持つ中で、アカデミーの話をいただき、自分が就任することを決めました。


私たちが「教えること」をしないのはなぜか

私達は子ども達にほとんど「教える」ということはしません。

それは、教えることをしないということが、バスケの競技力の向上や将来的な勝利、また教育的な面でも最も重要で有効なことだと考えるからです。

例えば、バスケットボールの仕事をしてきた中で、バスケットボールには教育的な意義がある活動であると信頼しています。

100年以上も前に生まれたバスケットボールが世界中の子どもたちにプレーされて発展を続けてきたのは、人生に通じる学びが得られる、意義のある活動であると評価されてきたからです。

アルバルクアカデミーの指導者が大切にしていること
アルバルク東京アカデミーでは指導者が「簡単に余計な味付けをしない」

指導者が教育の味付けを加える前に、バスケが持つ教育的な意義をよく考える必要があると考えているのです。

バスケはそれ自体が戦術、技術、身体能力、精神力、人間関係等のあらゆる課題を個々のプレーヤーに突きつけます。指導者が「ハードルを与える」必要はあまりありません。

何もしないことが不安になるかもしれませんが、自分自身がバスケットに対する信頼があるのであれば、自信をもって何もしないでいられるはずです。

バスケットボールは教育的な意義を持った素晴らしいものだと信頼しています。

【バスケットボールが「面白い」ことが最も重要】
  • バスケットボールは面白いもの
  • 面白いことに人は進んで取り組む
  • 面白いことからの学習効果は高い

そもそもバスケットボールは面白いものです。

そして、人は面白いと思ったものには進んで取り組みます。

気をつければならないことは、バスケはもっと面白いだろうと指導者が工夫したことが返って面白くなくしていることがあるのではないか、ということです。

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バスケットボールが子ども達に与えてくれる力

【VUCA時代におけるバスケットボールの教育的意義】
VUCAとは

V・・・「変動」

U・・・「不確実」

C・・・「複雑」

A・・・「曖昧」

特にビジネスの分野で用いられ、これら四つの要因により、現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表します。

先の予想は困難で、先に何が起こるかわからない。安定しようとしても無理がある。明確な答え、唯一な答えはないということです。

私もこのような領域について精通している訳ではありませんが、これらの時代の変化は育成年代の指導者にとっては無視のできないことなのです。

このような時代への対応力を身につけるためにも、バスケットボールは有効な活動なのではないでしょうか。

【これからの時代を生きるためにバスケットボールが教えてくれること】
VUCAに対応すること
  • 非常に複雑なゲームであり、唯一の攻略法が存在しない
  • 対戦相手の変化、自身のチームの構成や状態の変化により、「やるべきこと」が変わり続ける
  • 試合中に突然相手の3pシュートが連続で入り、状況が一変するなど、秒単位で状況が目まぐるしく変化する
  • ルール上の重要な判定を人間が行うゲームであるため、自分の行動が必ずしも正確に成果に反映される訳ではないことや、試合ごとに多少のブレがあるという「曖昧さ」に適応する必要がある

バスケットボールでは、これらの状況に即座に対応していくことが求められます。

曖昧さを受け入れ、感情的になるところを自制して感情のコントロールをしていくこと、

そして考えても答えが出ないことでも何か決断をして実行に移すこと、

これらには教育的な価値があると考えます。

環境に適応すること
  • 相手が異なれば、自分がやるべきことも異なる
  • (決めつけてやるということはバスケットボールの競技の特性上、あまりよくない。相手の動きによって対応を変えなければいけない)

  • ルールが変われば、有利な戦い方が変わる
  • (ルールは発展していくので、それに対応していかなければならない。)

  • それらの変化に、チームメンバーとともに協力して対応していく

目先の利害や快楽だけでなく、より大きな流れを捉える
  • ゲームをする対戦相手がいなければ成立しない、相手にも良いプレーをしてもらう必要がある
  • ~ナイスなプレーには必ずナイスな相手がいる~

    ナイスプレーの裏側には、その良い判断を起こさせた相手が存在する

    良いプレーをする相手に打ち勝つことができたからナイスプレーとなる

  • 「自分だけ良ければいい」は通用しない
  • 仲間の成長を支援できなければチームは強くならず、成功できない

    実戦に近い練習も一人ではできない

    目先のことに囚われてしまうと、変動や不確実性に振り回されてしまう

    即時の対応と同時に、大きな流れも捉えて、戦略的に活動する

人間的な成長とリンクして、競技力は向上していきます。

自分だけで良いと考えている選手は、長い目で見ると成長の幅が小さいのです。

選手にとって、練習や試合をどのようなチームメートと共にプレーできているかということが大切になります。

そして指導者が理解していなければならないことは、

チームメイトが上手くなっていことがチームを高めていくということです。

ナイスプレーをする相手がチームメイトにいること自体がハードルになっているので、共に高め合って練習をしてくことができます。そしてそれは練習の質を上げてくれます。

自分だけで良いと考えている選手は、長い目で見ると成長の幅が小さいのです。

練習を共にしているチームメイト自身が互いにそれぞれの選手のハードルになることは、指導者が与える課題よりも効果が高いと感じます。

自分のやり方を追求する

バスケットボールの競技の複雑性を考えると、様々なスタイルでプレーできるため、どのような特徴を持つ選手にも活躍の可能性がある

(自分の置かれた環境の中で自分の強みを見つけることが成長に繋がる)

これらのバスケットボール自体が経験させてくれることに注目し、

それを「邪魔しない」ことも、周囲の大人の重要な役割となります。


スタッフの選手との関わり方

「大人の力」を使わない
  • 子どもは大人より「未熟」であり、大人よりも間違えたり行動が遅かったりして「当然」
  • 子どもの判断、考えを尊重し、任せる
  • 子どもはトライすることが仕事

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子ども達と関わる中で大切にしていることは、子どもの経験を極力矯正しないことです。

自分の考えを素直に表現したことに対して得られる経験が、最も大きな学びになると考えています。

そのような経験をたくさん積んだ人は、将来複雑な物事にも自分で考え、取り組む力が身についているのではないかと考えています。

子ども達がそこに行きつくまでには「未熟な時間」を長い時間経験しなければならなりません。それを大人が見守れるかどうかが大切なのです。

このときに、将来の姿を信頼されて見守られた選手は、将来自分をコントロールし自ら行動できる人になるのでしょうか。

自分の考えを素直に表現したことに対して得られる経験が、最も大きな学びになると考えています。

子どもの頃に一番やらなければならないことは、子どものころに色々な物事に触れて経験し学習していく、「トライ&エラー」を繰り返して、自分を見出していくということだと考えています。

子ども自身の判断で行動する経験が必要

スタッフが何かを教えることなど、整理された状況で活動をするよりも、「安全を確保したうえで」あえて子どもが混沌としたとした状況の中で成長することを目指す。

考えるきっかけはバスケットボールが与えてくれるので、あえて指導者から整理してあげる必要はないと思います。

VUCAの社会に出た時に、自分自身で判断して行動できる力が発揮されていきます。

メッセージ

長期的に大きく成長するためには「目先の勝利」よりも優先すべきことがある


なぜ長期的な成長を目指す必要があるのか

  • バスケットボールは長く取り組むことによって、人生に通じる学びを得ることができる活動
  • 趣味の一つとして、スポーツの奥深さを知ることで、人生を豊かにすることができる
  • 選手生命が長く、選手としてのピークが遅いスポーツである

バスケそのものは楽しいものです。

そして、長く取り組むことで得られるものが大きいのです。

子ども達に教育的意義のあるバスケットボールに長く取り組んでもらいたいと思っている中で、外からの要因で子ども達がバスケットボールを辞めてしまったり、意欲が低くなってしまうことはあってはならないことです。

私たちが邪魔をしてはいけません。

今勝つためにやっていることが、思ってもみない影響を子ども達に与えていて、活動意欲の低下を招いてしまう危険性があるのです。

『長い助走を取らないと、高く飛べないこともある』

長い時間をかけて助走をつくり、その積み重ねたもので跳び上がればより跳べることができるでしょう。

つまり、長い時間をかけて経験を重ねて磨いていくと、より大きく成長できるというイメージです。

バスケは長く楽しめるスポーツ

バスケットボールはスポーツの中でも戦術的要素の割合が大きく、長くプレーすればするほど理解度が高まり、身体能力のピークを過ぎても活躍できるスポーツです。

このように、いつまでも突き詰め続けることができ、課題を提供し続けてくれるものです。

「強制」すると短期的に勝ててしまう場合がある

バスケットボールの戦術性の高さから、指導者が特定の戦術や技術を練習させ、実行すればすぐにに結果が出る場合があります。

しかし、それが必ずしも長期的な成長に有効とは限らないのです。

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アルバルクアカデミーの取り組みの例

【アルバルクが「後回しにしていること」】
 

プレーの成否に身体的な要因が大きいもの

(1対1ディフェンス、チャージングをとること、ボックスアウトをすること)

一時的な身体能力の差が出る育成年代では、これらをプレーの成否の基準においてしまうと評価されない場合が出てきます。

これらのスキルは、日々混沌とした中でプレーと向き合うことで自分で考え判断することが習慣となっており、身体を思うように動かす能力が高く、基本的な身体の動かし方が備わっている選手達にとっては、心身がある程度成熟した段階で取り組むことですぐに覚えることができると考えています。

逆にそれ以前に教え込んでも、「偽物」のスキルになってしまう可能性もあると考えています。

 

特定のテクニック、戦術

ある特定のテクニックや戦術を習得したり、暗記したりするには時間がかかります。

しかし、1つのテクニックで10を理解できる段階になってから教えることで、習得が早くなり、理解のスピードもあがるので効果が高いです。

このことから、選手が日々自分で考えながら、混沌としている状態でプレーに向き合い、実戦の中でトレーニングしていくことができる環境が大切であると考えています。

「面白い」「やりたい」が一番大事
  • 内発的モチベーションによって活動が行われる環境づくりがスタッフの役割
  • 自分がやりたいと思って進んで取り組むことからの学習効果は高い
  • バスケは、探求心に答え続けてくれるほど奥が深い
2019年12月29日の練習

  • トレーニング:フィジカルファンデーション、モーターコントロール(45分)
  • ボディコントロール(5分)
  • シューティング(15分)
  • ゲーム(45分)
  • クールダウン(15分)

【育成年代のコーチングについて伝えたいこと】
  • バスケットボールが経験させてくれることを信頼し、「そのまま」経験してもらう
  • 子どもに備わっている学習能力を信頼し、「子ども自身が楽しいこと」を大切にして、子どもが「自分で成長する」ことを最重要視する
  • 目先の成果にとらわれない長期的な成長のために「今必要な経験」に集中する
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