
第4部保護者講習会「U12からU15年代の子どもたちに最も重要な環境は何か」
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- 第一弾「世界選手権を経て感じた、育成年代のコーチングの問題提起」
- 第二弾「課題解決能力の向上ーU12で推奨したい技術と戦術」
- 第三弾「課題解決能力の向上ーU12で推奨したい技術と戦術-実戦編」
- 第四弾「世界選手権を経て感じた、育成年代のコーチングの問題提起-講義編」
- 第五弾「世界選手権を経て感じた、育成年代のコーチングの問題提起-実戦編」
- 特別講習アルバルク東京アカデミーマネージャー兼U15ヘッドコーチ塩野竜太コーチによる「育成年代のコーチング論」
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保護者講習開催にあたって
今年のジュニアバスケットボールサミットでは、「育成マインド」というものを指導者の皆さんと一緒に考えてきました。
この育成マインドですが、実は指導者だけではなく保護者の皆さんにも理解を得ることが必要になります。
なぜならば、指導者が育成マインドで指導をしている中、なかなか試合に勝利できないことがあります。
そこで保護者が「もっと勝たせてほしい」と考え、指導者に疑念を抱き始め、保護者は「今、勝てる指導者」を求めるようになっていくということがあります。
つまり、保護者が指導者の役割を「勝利」でしか捉えられない結果、指導者が「育成マインド」を実現しにくくなるということが起こるのです。
指導者だけが育成マインドを持っているだけでなく、そのチームに子どもを預ける保護者も、育成マインドについて理解がないとチームは成り立ちません。
この講習では、保護者がどのような考え方を持つのが良いか、どのような指導者を選んでいけばよいのかということについて、問題提起しました。
今回ご紹介した「育成マインド」という価値観に賛同してもらえたら、この考え方を皆さんの周りにいる「スポーツするお子さんを持つ保護者の方々」に広げていっていただけたら嬉しいです。

ディスカッション:良い指導者をどうやって見分ければよいか
これからはチームを選べる時代になっていきます。
何を基準として子どもを預けるチームを決めるか考えるとき、基準のひとつとなる「指導者」という要素はとても比重の大きなものだと思います。
どんな指導者に預けたいかと考えた時に、誰もが「良い指導者」に預けたいと考えるでしょう。
では、良い指導者とはどんな指導者なのでしょうか。
【これまでの良い指導者の見分け方】

知ってる指導者と知らない指導者
戦術、コーチングをたくさん知っている指導者とバスケを知らない指導者の2つに分けられるとします。
前者の知っている指導者はバスケを知らない指導者より選手を育てられる指導者とされていました。
そして、選手を育てた結果勝利します。
選手を育てられない指導者は勝てません。
そうなると、
勝てるチームの指導者は育てられる指導者だから良い指導者
負けるチームの指導者は選手を育てられない指導者
として見られることになります。
つまり、
良いコーチを探すときに勝っているか勝っていないかで見分けることになるのです。
良いコーチを探すときに、「育てられる指導者」にあずけたいと考えるでしょう。
そうすると、今までの考え方だと育てられる指導者は勝っている指導者とイコールで結ばれるので、勝っている指導者のもとへいけば育ててもらえると考えるでしょう。
【勝っているチームに子どもを預ければいいと安易に考えてしまうこと】
今後の育成年代では、将来に向けてどの年代で何をしていくかということが整理されいきます。
アルゼンチンの育成計画を見てみると、ピック&ロールのような人に助けてもらうプレーを育成年代では指導していません。U16から指導されています。
育成年代から人に助けてもらうプレーに慣れてしまうと、自分で打開する力が身に付いていきません。
自分で打開する前に人の力を借りて打開していくことに慣れてしまいます。
ただ、まだディフェンスが未熟な状態の育成年代では、人の力を借りて状況を打開するスクリーンプレーは非常に有効な勝利への手段です。
つまり、
育成年代で勝利するためにベストな方法は、育成にとってベストな方法とは限らないということです。
勝つための方法を育成年代から採用していく指導者のもとで育った選手
育成にとってベストな方法を選んで勝利を目指す指導をする指導者のもとで育った選手
育てられる指導者よって受け取るものに大きな差が出る
【これからの良い指導者の見分け方】
- いままで・・・勝ち方を知っている指導者
- これから・・・勝ち方も知っているけれどそれ以上に育て方を知っている指導者
良い指導者は「勝っている」というだけでは簡単に見分けることができません。
勝っていると悪いコーチというわけではもちろんありません。
勝っているかどうか以上に、「育て方」の部分で良い指導者かどうかを見分けなければならない時代になってきているのです。

ディスカッション:子どものスポーツを考えるときの大人のエゴの問題
【問題提起】
「20人以上いた部員を鍛えて鍛えて、ほとんどが辞めたけれども残った5人が過去最高の成績を残した」
・このようなエピソードは武勇伝か、それとも失敗談か。
・育成年代において、このような勝利が称えられてしまうことがないか。
・勝たせた指導者がすごいと思ってしまうことに対して、疑念を持つ必要がないか。
バスケットボールは子どもたちにとって、もっと主体的で魅力的なものだと僕は考えています。
育成年代から「“指導者の”勝ち負け」にこだわる文化が、スポーツを子どもたちのものではなく、大人のものにしてしまう要因になっています。
大人が自分の過去に経験した失敗や後悔、希望を子どもに注入してしまっていないでしょうか。
そして、本来は子ども達のものであるバスケットボールの楽しみを子ども達から奪ってしまっていなでしょうか。
「バスケットボールを子ども達のものにする」
というコンセプトが、僕の基本にある哲学です。
子ども達が主体的にバスケットボールに取り組み、バスケットボールを子ども達自身のものにしていく。
大人が押し付けるのではなく、子ども達自身で考え、課題を解決した時に、バスケットボールは子どもたち自身のものとなります。
バスケットボールが子ども達にとってもっと主体的で魅力的なスポーツになるために
子ども達は指導者に課題を解決してもらうのではなく、自分自身で課題を解決していく。
指導者は課題を解決してあげるのではなく、課題を与える役割を担う。
ここまで紹介してきた価値観、指導者の考え方を「育成マインド」と呼んでいます。
保護者として、指導者を選ぶときの一つの価値観として、「育成マインド」を持っているかどうかという視点をご提案したいと思います。
【「育成マインド」から考える、保護者としての問題行動】
大人が子どものスポーツに過度に介入してしまうことが、子どもの成長を妨げるものとなってしまう危険性があると言われています。
保護者の子どものスポーツへの介入については世界各国で問題視されており、このことについて見直していく必要があると考えます。
過度な介入についての例をいくつかあげてみます。
- 子どもの生活を常に監視し監督する(ヘリコプター・ペアレント)
- 子どものために道を舗装し転ばないように石を全部取り除いてあげる(ブルドーザー・ペアレント)
- 課外活動を次から次へとスケジュールし、子どもを連れまわす(ショフール・ペアレント)
- 子どもの完璧な道を開くために障害となりうるものは全て取り除く(スノープラウ・ペアレント)

バスケットボールにおいての保護者や指導者の役割は、私たち大人が勝つか負けるかということではなく、選手の成長をいかにサポートするかということです。
勝利や選抜だけに価値を見出してはいけません。
そこを目指す過程で彼らが何を学んだかということが大切になります。
良い指導者に出会えることが子どもの成長につながる
良い指導者であるという条件は勝敗という結果だけではありません。
どのような考え方で、どのように子ども達を育成しているかなど多くの観点があると思います。
良い指導者を選ぶとき、「指導者の“育成の仕方や考え方”に保護者がどれだけ気づけるか」ということが大切になってくるのです。
保護者の皆さんの「指導者を見る目」こそが、これからの子どもたちのスポーツを環境を作っていく。
子ども達の未来のために私たち大人ができること
日本と欧米の文化の違いから、日本の子ども達は欧米の子供達にくらべて、「勝ちたい!」「私がやりたい!」「奪い取りたい!」といった貪欲さが少ないと言われています。
欧米では自主性や積極性が目立ち、規律やチームワークについてのコーチングを重視する指導者が多く見られます。
しかし、日本の子ども達は欧米の子ども達が課題としている規律やチームワークについては理解が早いのです。
その反面自分で考えることや自分で行動すること、責任を持つことなどのオーナーシップやリーダーシップを発揮することが上手くできない子ども達が多いと感じます。
このような背景から、私達指導者はこのオーナーシップやリーダーシップを育成していくコーチングをしていくべきだと感じるし、課題を選手に与えられる指導者が増えていくことに価値があると考えています。
子ども達の未来のためにも、育成マインドの考え方や価値観を保護者のみなさんと一緒に広げていきたいと思っています。


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- 第五弾「世界選手権を経て感じた、育成年代のコーチングの問題提起-実戦編」
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