JUNIOR BASKETBALL SUMMIT 2019 レポート【第四弾】

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第3部「世界選手権を経て感じた、育成年代のコーチングの問題提起-講義編」

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ディスカッション:リーダーシップとオーナーシップ

【リーダーシップとは】

まず、リーダーシップとは何でしょうか。
経営学者であるピーター・ドラッカーはリーダーシップについて次のように述べています。

  • リーダーシップとは資質ではなく、仕事である
  • リーダーシップとは、責任である
  • リーダーシップとは、信頼である

つまり、生まれながらのリーダーはいない。リーダーシップは学ぶことができるということです。
そして、優れたリーダーは、失敗を人のせいにしません。
また、ドラッカーはリーダーの唯一の定義が「付き従うものがいること」としています。

リーダーシップを発揮するには、一緒にいる人たちの信頼を掴まなければならないのです。

【リーダーシップ育成の現状】

もし、現シニアのバスケットボール選手の中にリーダーシップを発揮できる人材が少ないのだとすれば、それは育成年代に問題があったと考えられるのです。
日本にリーダーが少ないのは、生まれながらにリーダーの資質を持った選手が少ないのではなく、リーダーが育つような環境が少ないのではないでしょうか。

これまでの育成年代の指導現場では、指導者が選手をロボットのように扱い、勝つための戦い方を指示してしまうコーチングが多く見られたと思います。
課題を解決してあげるコーチングをしたり、指導者が介入しすぎてコントロールをしてしまう現状では、指導者が選手から自らリーダーシップを発揮する場を奪い、選手は、自らリーダーシップを発揮する場を失ってしまっている現状があるのではと考えることができます。

それではリーダーシップは育っていきません。

また、個人が目の前にある課題に対して主体性を持って取り組む姿勢である「オーナーシップ」が育成年代では必要になり、
課題を解決してあげるコーチングで育成していくことはできないでしょう。

練習や、成長すること、勝利することが自分の努力次第であり、自分の行動次第で変わるという経験が育成年代ではとても重要なのです。

ポイント

指導者は、子ども達がリーダーシップを発揮できる環境作りをしていく

【リーダーシップ・オーナーシップを育成するためにできること】

このリーダーシップは、育成年代で積み上げておくべきことのひとつだと考えています。
リーダーシップは、選手たちに責任を持つ機会を与えることによって学ばせることができます。
育成年代で選手にリーダーシップを発揮する機会を与え、役割を待たせることがで重要となります。

しかし、それは単にキャプテンという役割を任命して、みんなの前で号令をかけさせるとか、連絡事項を伝えさせるということではありません。
単に指導者からの指示に従うだけではリーダーシップとは言えないのです。
そして、チームで一人だけがリーダーシップを発揮するという組織づくりにも問題があるのです。
チームメンバーの一人一人が、リーダーシップを発揮する機会が開かれ、オーナーシップを感じられるような育成というものを考えなければならないのです。

リーダーシップ論

【育成年代の指導者の仕事とは】

子ども達が不便なことや困ることがないような恵まれた環境の中で育っていく現状で、非日常を与えられるスポーツの場だからこそ、自分で課題を解決していく経験を積ませることができるのではないでしょうか。

その経験を積める場を提供し、子ども達を育成していくことが育成年代の指導者の仕事ではないでしょうか。

その中にリーダーシップやオーナーシップの学びが含まれてきます。
指導者は「課題を与えるコーチング」によって選手たちのリーダーシップとオーナーシップを育成していくことができます。
間違えてはいけないのは、課題を与えるコーチングというのは、放任とも違いますし、甘やかすということとも違います。
選手一人一人の成長に責任を負う、それが育成年代の指導者の使命なのではないでしょうか。

育成年代の指導者の仕事
一人一人の選手に責任を負い、自分で課題を解決していく経験を積ませる場を提供すること


ディスカッション:勝利至上主義と育成至上主義

【勝利することと育成することは表裏の関係ではない】

選手たちのリーダーシップとオーナーシップを育成するためにも、「課題を与えるコーチング」が有効であると、ここまで述べてきました。

課題を与えるコーチングをすることは、選手たちが課題を解決できるまでの時間が必要になり、自ら育つことを待つ時間を要することになります。
しかし、目の前には試合や大会が迫っており、結果として選手が自ら課題を解決することを待てない、というのはよくあることです。

つまり、この年代のコーチングには、勝利と育成を天秤にかけるような状況があるのです。

そこで我々は、「勝利」と「育成」というものをしっかりと咀嚼しておく必要があります。

そもそも、勝利と育成は表裏のような関係ではありません。

そこを詳しく考えていきましょう。


【勝利至上主義と育成至上主義の考え方】

勝利と育成について、それぞれどちらからに偏りすぎてしまうことを「勝利至上主義」「育成至上主義」と呼んでいます。

勝利至上主義の考え方
・勝つことがすべて
・勝てなければ意味がない

こちらはイメージしやすいと思います。
この勝利至上主義で育成年代をコーチングすれば、大人が子どもたちに対して勝つための方法を徹底するような指導が行われます。
そのため、育成年代において勝利至上主義は悪だというような論調が強くなってきていました。

しかし、実は勝利至上主義を敬遠することで育成に振り切った考えた方にも、問題があったのです。

育成至上主義の考え方
・勝たなくてもいいというスタンス
・単なる放任になり、選手の成長に対して無責任になる
・指導者によっては教えられないことの言い訳に使う
・スポーツや遊びの本質の中にある「競争する」ということから外れていく
・成長すると勝利に近づいていくという成長の本質からずれる?指導者の存在意義がなくなる

勝利至上主義であれば、育成の考え方が受け入れられません。
育成至上主義であれば、育成が全てで、勝つ必要はないと思ってしまいます。

お互い、別の価値観を受け入れられないのです。

『ビジョナリーカンパニー』からの考察

この、勝利か育成かどちらかしか取れないという考え方は、「ビジョナリーカンパニー」という本で紹介されているORの抑圧*1に当てはまります。

これでは偉大な組織にはなれません。

指導者はANDの才能*2を発揮できることが求められます。

*1相反するものがあったときに、どちらかを取ったらその一方しか取れないという考え方。

*2相反するものがあったときに、同時に追求できる能力のこと。

選手たちにとって良い環境とは
そもそも我々は、「我々がどういう指導をしたいか」を問うのではなく、「選手たちにとってどんな指導が良いのか」を問わなければなりません。
選手たちにとって良い環境となるのは、この両極端のコーチングではなく、
勝利と育成が乖離していない勝利の定義、育成の定義が必要になるのです。


【勝利至上主義、育成至上主義となりうる境界線】

では、勝利至上主義、育成至上主義となりうる境界線はどこにあるのでしょうか。
まずは育成至上主義となりうる境界線について考えます。

育成至上主義となりうる勝利育成主義との境界線
「勝たなくてもいい」となるかどうか

以前のレポートでも紹介した通り、子どもたちのスポーツ環境には遊びとしての要素と競技としての要素が同居しています。
競技に関してはもちろんのこと、遊びですら勝ち負けは大事なファクターです。

大事なことは、勝たなくてもいいというメッセージではなかったわけです。
「勝たなきゃ」とか「勝たなくてもいい」とかの話ではなく、
「子どもが勝ちたいと思ってるのか」「大人が勝たせなきゃと思ってるのか」の違いが大事だったわけです。

だから、勝つことにこだわることは良い面もあります。
それが「子どもたちが勝つことにこだわる」である限り。
子どもたちが勝つためにどうしたら良いだろうと考えたり、工夫したりすることがリーダーシップやオーナーシップの源泉になるのです。

次に、勝利至上主義になりうる境界線について考えます。

勝利至上主義となりうる勝利育成主義との境界線
勝利という課題の捉え方の違い

ここがこれまで明確になっていなかったラインです。
「勝つことが大事だ」と言うと、「お前は勝利至上主義だ」と言われてしまうような風潮もありました。

今回、特に協調して皆さんに提示したかったのは、この勝利至上主義と勝利育成主義とを隔てる境界線についてです。
この境界線には、これまで紹介してきた「課題を与えるコーチング」と「課題を解決してしまうコーチング」が当てはまると考えています。
つまり、指導者が勝たせようとするか、選手が勝とうとしているか。

具体的に言えば、
ゾーンディフェンスやピック&ロールを駆使した方が、勝利には手っ取り早いと言うことが分かっていて、でも育成には1on1を優先した方が良いと分かっている。
それでも目の前の大会に勝つためにゾーンDFを採用してしまうというようなことです。
つまり、勝利という課題を選手のものにするのか、指導者のものにするのかの違いです。

勝利育成主義の心構え
指導者は選手の成長に責任を持ち、選手が成長していないことに対して指導者が責任を負わなければなりません。
選手たちの成長に責任を持つ「coach’s responsibilitie」の考え方と
選手を中心に考える「player’s centered」の考え方を持つことが大切となるでしょう。


【勝利育成主義に対する疑問】

勝利育成主義的な考えが育成年代のコーチングに必要になるという中で、それに対して疑問が生まれてくると思います。
よく耳にする疑問について考察していきます。

アルゼンチンの資料では、U13までは戦術などを教えないで、1対1、5アウト、マンツーマンの指導しかテーマに入っていない。それだけで指導者のやりがいはどこにあるのか?

育成年代では、1対1、5アウト、マンツーマンの指導だけでもやるべきことはたくさんあります。それこそ、時間がいくらあっても足りないほどに沢山です。
その3つの中で選手たちが向上することを目指すだけでも、やりがいはかなりのものです。
もしやりがいが見えないとすれば、それはその中にたくさんある「課題」が見えていないのかもしれません。
もしかしたら、選手の育成ではなく勝利だけを考える指導になってしまっているかもしれません。
そして、この年代で1対1、5アウト、マンツーマンが磨かれていったら自然と勝利に近づいてしまうものです。

子ども達に色々と教えることが面白いのではないか?

色々と教える=課題を解決すると考えると、もちろんこれには面白みがたくさんあります。
子どもたちに信頼尊敬され、必要とされているという実感も感じやすいため、指導者としての面白みはここにたくさんあるのは間違い無いでしょう。

しかし、課題を与えるコーチングにもかなりの面白さがあります。

そもそも、課題を解決するコーチングの方が簡単で、課題を与えるコーチングというのは難しいです。魚をとってあげちゃうのは簡単ですが、魚の取り方をつかませるほうが難しいのです。
その難しいものに挑戦していることが、そもそも指導者として楽しいと思えます。
よりよいコーチとして成長していくため、よりよいコーチングができるようになるために、選手に簡単に教えてしまうのではなく、課題を上手に与えていくというコーチングの力を付けていくことを楽しんでいます。

このような面白さを追求していくことのやりがいという、そういう価値観を提示したいと思います。

育成年代のときに戦術やピック&ロールを指導して選手を勝利に導いたことで、自分は勝たせられる優秀な指導者だと思ってしまうのは悲しいことです。
なぜならば、優秀さの物差しが勝利だけになっているからです。
それは、利益しか考えていない企業となんら変わりません。


【指導者は選ばれる時代へ】

これまでのバスケットボール界では、子どもたちがチームに所属するときに、自分の生まれ育った地域のミニバスのチームへ所属したり、通っている学校単位のミニバスチームに所属するという仕組みが定着していました。
そして、子ども達はそこにいる指導者に教えてもらうというものでした。
また、以前はU12カテゴリー(旧ミニバス連盟)において、5校以上の小学校の児童が集まったチームは全国大会への出場権がないという規制もありました。

このような仕組みが当たり前で、選手や保護者が指導者を選んでチームに所属することは難しい時代でした。

しかし、現在ではU12カテゴリーの「4校枠の撤廃」があったり、固定的な所属制度がなくなり自分の所属したいチームへ加入できるなど、選手側の選択の自由度が拡がりつつあります。

このような背景で、選手が指導者を選ぶ時代へ、自分の所属したいチームへの加入ができる時代へと移り変わってきているのです。

良い指導者は見分けられていく

選手、保護者がチームや指導者を選べる時代となり、良い指導者は見分けられていくことになります。

今までは、「勝利している指導者」が良い指導者であると考えられていました。
しかし、それが徐々に変わってくると思います。

ビジネスでの利益とチームスポーツでの勝利
ビジネスでいう利益と、チームスポーツでいう勝利は似ている性質があります。
利益を出している会社は良い会社とされていましたが、
ただ利益をあげているだけで環境の汚染や社会を不健康にするような会社は排除され、選ばれなくなっています。
勝利だけを追っている指導者やチームは、ただ利益をあげている会社に似ています。
ただ利益をあげているだけで環境の汚染や社会を不健康にするような会社は排除され、選ばれなくなっています。

子どもたちのスポーツ環境も、指導者、チームが勝利という利益だけを追っていると、それが見分けられる時代となっていきます。

保護者に目線を変えれば、これからは単に「勝ってるから」という理由でチームを選ばない方が良い時代が来ているとも言えるのです。

選ばれる観点
単に「勝っているから」という結果だけでは選ばれることはなくなる
指導者がどんな理念で、どんな指導をしているのかで、チームは選ばれる時代に


【これまで勝利至上主義だった場合の、その活かし方について】

日本と欧米の文化の違いから、日本の子ども達は欧米の子供達にくらべて、「勝ちたい!」「私がやりたい!」「奪い取りたい!」といった貪欲さが少ないと言われています。

このような貪欲さが少ない子ども達にとって、勝利至上主義的な考え方である”勝たせてあげたい”という想いから生まれる大きなエネルギーは子ども達に大きな影響力を与えるかもしれないのです。
そのエネルギーそのものは、決して否定されるものではないのです。

問題は、「勝たせ方」だったのです。
今まで「勝たせること」に注いでいた情熱を、「勝たせ方」に注ぎ変えるのです。

課題を与えて、その課題を選手たちが解決することに情熱を注げば、おのずと勝利も近づきます。
でもそのときに手にする勝利は、あなたが勝たせた勝利ではなく、選手がつかんだ勝利となります。
そして、それこそが指導者にとって「価値ある勝利」といえるのではないでしょうか。

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