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1.「第1部の振り返り」:【練習に求めていきたいもの】

【『遂行力』を高める】

日々、練習をすることによって成果は得られます。

しかし、練習を積み重ねても、得る成果が大きくならなければ、練習のやり方が間違っていることになるのです。

そうなると、練習のやり方を変えなければなりません。

しかし、そもそも練習をする時間は限られています。

時間の制約がある中では、良い練習設計や効果的な影響力が出るように工夫をして練習を作っていく必要があるのです。

今までは、育成年代でも指導者として「試合での勝敗」を成果にするチームが多かったと思います。

     

もちろん、選手にとって勝利を目指してプレーすることは当然のことです。

     

負けてもいいという鬼ごっこはつまらないのと同じで、バスケットボールという壮大な遊びであるスポーツも、勝ち負けを競う中に楽しさがあると思います。

     

しかし、指導者にとっての成果が勝利だけでいいのかということは、これから考えていく必要があると思います。

     

たとえば鬼ごっこに大人が介入して、正しい捕まえ方を徹底するようなことはしないはずです。

     

育成とは何か、子どもたちにとってスポーツとは何か、指導者の役割とは何か、そういったことを考えたときに、育成年代のコーチングは選手の将来性を考慮した成果を定める必要があるのではないでしょうか。

そして、子どもたちが成長するに従い、究極の遊びであるスポーツを競技として捉えていく過程で、指導者もその役割を変化させていく必要があるわけです。

     

ここでは、競技力向上を目指す上での指導者の役割、課題の与え方について一つの提案をします。

     

将来性を考慮した成果の一つとして、『遂行力』を成果として選手も求めることを指導者への課題提示とし、

技能の『遂行力』が上がるかどうかを、上質な練習かどうかの判断基準の一つとして提案します。

成果
ポイント
指導者は、選手に遂行力を成果として求め、遂行力を高める練習を選手に提供する

【指導者が工夫すること】

「良い練習」は「良い技能(スキル)」を高めます。

そして、「良い技能」には、「適切な判断力」や「高い身体能力」が必要となります。

そこで、「適切な判断力」や「高い身体能力」が求められる状況を作る練習が大切になってくるのです。

勿論「どのような練習が上質なものか」を考えておかないと、練習で適切な負荷をかけることができないので、指導者はこの点を念頭においておく必要があります。

例えば、本来「良い技能」になるまでに3年練習が必要なものを、1年で出来るようになったら、それは効率という点で質の高い練習だと言うことができるでしょう。

このように、指導者には「どうすれば上質な練習を選手に与えることができるか」を考え、工夫することが求められるのです。

良い技能、良い練習
ポイント
指導者は、選手の「良い技能(スキル)」を高める為の「良い練習」を考え、工夫する。

【対人練習の重要性】

トップレベルの試合では戦術(メインアクション)があり、そのメインアクションを基に行いたいプレー(アクション)が存在します。

Bリーグや日本代表でもメインアクションを基に、

  • どうトランジション(攻守の切り替え)を行い
  • どうプリパレーション(メインアクションを行使するための準備)をし
  • どうアクションするか

を考え、実行していると考えられます。

勿論、そのようなアクションを相手DFは壊してくるので、その状況を「どう打開するか」という打開力と、

そもそも、プレーを壊されないようにする能力(遂行力)の両方を高め、質の良いプレーにしていく必要があるのです。

しかし、今までの育成年代の練習には課題があるのではないかと考えています。

それは、

  • 相手(の動き)を想定し、
  • 相手に対してどう感じ、
  • どう工夫すれば良いか

ということを、選手自らが考え、選手自らが課題を解決するという練習が少ないということです。

バスケットボールは対人スポーツであるので、「相手から教わる」、

すなわち、相手の動きに応じて「自分が何をしなければならないか」を考えながら練習を積んでいかないと、

良いプレーができるようにはなりません。

相手を想定しない単なる反復練習ではなく、相手がいる練習で適切な課題を与えていくことが重要です。

また、やろうとしていたことが出来なかった時の次の対応まで練習するというような環境設定が重要なのです。

ポイント
良いプレーの為に、対人練習を沢山行い、エクスキューション力を磨く。
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2.ディスカッション:「アルゼンチンから学ぶ年代別の育成計画」

以下の資料は、アルゼンチンが年代に応じてどんな練習課題を与えるかを示しています。

アルゼンチン資料

資料では、スクリーンプレーなど人の助けを借りるプレーは出来るだけ、後ろの年代になってから経験させるようにしていると読み取れるでしょう。

なぜかというと、若い年代から人の助けを借りるプレーを経験しすぎると、自分の力で高いするという力が磨きにくくなると考えているのだと思います。

そもそも、バスケットボールは「戦術が戦術によって壊されやすいスポーツ」なので、「戦術が戦術によって破壊された」状況になった際、個人で状況を打開できる能力が必要になります。

そこで、アルゼンチンは、若い年代から「人の助けを借りてプレーすること」に慣れてしまうのを避け、「個人の能力(個人で攻める力、個人で守る力)開発」に焦点を当てていることがこの資料から見て取ることができます。

資料からは他にも様々な年代別育成計画が読み解くことができるので、以下で考察を述べていきます。


【ヘルプディフェンスをU14から教える理由】

過去の日本では、若い年代(年齢)では3Pシュートは入る確率が低いという理由もあって、勝利のためにゾーンディフェンスが優先されていた時代がありました。いまはゾーンディフェンスはルールで禁止されていますが、マンツーマンディフェンスであってもディフェンスの際にミドルラインまで寄って、ヘルプする(仲間の選手を助ける)ことを優先して指導が行われることが一般的ではないでしょうか。

資料の通りアルゼンチンの育成計画では、U13以前はマンツーマンディフェンス(フルコート)を教えていることが読み取れます。

その中でも特徴的なのは、ヘルプディフェンスに取り組むのがU14になってからという点です。

ただ、本来勝つためには、ヘルプを教える必要があるでしょう。しかし、この資料によればアルゼンチンではそれを早くから教えていません。

これはなぜでしょうか?その答えの鍵は個人の解決力(自ら状況を打開する力)を磨くというコンセプトを重視しているからではないでしょうか。

勿論、海外の育成年代の選手は、勝つことにかなり貪欲です。しかし、選手は、ヘルプする、もしくはヘルプを受けることを指導者から教わりません。

このような状況で選手は、勝つためには自分の力で状況を打破しなければならなくなります。

勝負にこだわってる子どもたちにこの育成コンセプトが実行されれば、ヘルプがいるからと、1on1のディフェンスで抜かれることを良しとするような環境ではなくなります。

環境が選手を育てる。個で打開する能力と同時に、個で守り切る力を育てる環境を作り出すため、アルゼンチンはU13までヘルプローテーションを教えないのではないかと考えられるのです。

指導者は勝つために良い方法を知っていて、早い年代からそれを教えて勝つことは出来てしまうかもしれません。しかし、それによって失われるものもあるということをこの資料は教えてくれます。

育成年代の指導者の役割とは何なのか。成果は何なのか。選手が勝とうとすることと、指導者が勝たせてあげてしまうことの違いが表現されていると思います。

ポイント
選手個人のヘルプに頼らない解決力(自ら状況を打開する力)の向上に焦点を当てている

【オフェンスの指導が5アウトオフェンスから始まる理由】

5アウトオフェンスは、5人全員がアウトサイドのプレイヤーとして攻める戦術です。アルゼンチンはU13以前はこの5アウトオフェンスを主に採用していていることが資料から見て取れます。

これは、U12〜13くらいまでだと身長の伸びのピークがどのタイミングでくるかわからないため、身長に関わらずペリメーター*1でのプレーを指導するのが育成の基本となっているからではないでしょうか。

私達が調べた多くの国が、育成年代ではまず5アウトオフェンスをまず教え、その後、U14くらいから4アウト1インオフェンス*2などを教えていくプログラムを採用していました。

ちなみに、プロやBリーグでは5アウトオフェンス、4アウト1インオフェンス、3アウト2インオフェンス*3などのスペーシングが、状況によって瞬時に、また頻繁に入れ替わるため、どのスペーシングにも選手は対応できないといけなくなります。

その中でも、4アウト1インオフェンスになる場面はかなり多いので一番大事なスペーシング技術となります。

*1ペイントエリアの外側、かつ3Pラインの内側になるエリア

*2センター以外のポジションが3Pラインの外側に位置する形のオフェンス

*34番、5番ポジションの選手が3Pラインの内側に位置する形のオフェンス

ポイント
育成年代では、身長に関わらずペリメーターでのプレーができるようにする。

【ピックアンドロールの指導タイミング】

資料の通り、ピックアンドロール(オンボールスクリーン)は、オフボールスクリーンの後で教えることになっています。

実際のところ、教える順番は各国によって様々ですが、弊社代表の鈴木もオフボールスクリーンの後にオンボールスクリーンを教えるという指導順番が良いと考えています。

なぜならば、人の助けを借りない「1対1での打開力」を高めていくことが、育成年代にとって重要となるからです。

そもそも、年齢が上がり、個々の選手の能力が上がるにつれ、ディフェンスがオフェンスにボールを持たせないように仕掛けてくる場面が増えてきます。そうなると、オフェンスとしてはボールを持てる時間が少なくなるでしょう。

しかし、そのような状況下でも、マークマンやディナイを自ら剥がし、ボールをもらえる状態を作らなければなりません。その為、「オフボール時、自らオンボールになる状況を作る」という、「1対1での打開力」が重要になるのです。

勿論、自らがボールを貰おうと「1対1での打開力」を発揮したとしても、ボールを貰えない状況が出てきます。

その場合、人の助けを借り(オフボールスクリーン)、ボールを貰うプレーで状況を打開するようにするのです。

さらに、相手ディフェンスが強固になり、1on1で打破できないからこそ、オンボールスクリーンの助けが必要になるという整理の仕方となっています。

以上のことから、年代ごとの指導計画においても、

  1. オンボール状態で自力で状況を打開する。<1対1での打開力>
  2. オフボール時に自力でボールをもらえる状況を作り、自分がオンボール状態になるようにする。<パスのもらい方の技術>
  3. オフボール時に、仲間のヘルプを借りて、自分がオンボール状態になるようにする。<オフボールスクリーン>
  4. オンボールの時に、仲間のヘルプを借りる。<ピックアンドロール(オンボールスクリーン)>

という順番で、アルゼンチンは指導しています。

これは早い時期から優先して「個の能力を高める」ことに対して理に叶っているからだと考えられます。

ポイント
「オフボール時、自らオンボールになる状況を作る」という、「1対1での打開力」を育てることに焦点を当てている。
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3.ディスカッション:「指導者の本当の役割」

【日本の指導者と世界の指導者の差】

もし、あなたが指導者であるならば、他の指導者に自分のチームの練習や試合を見られた時に、

どんな状況を恥ずかしい

と思うでしょうか?

この「どんな状況を恥ずかしいと思うか?」ということにも、欧米諸国の人と日本人との価値観の違いが顕著に現れているのではないでしょうか。

例えば、人との会話において、欧米諸国の人からすると、日本人は会話をしていても自分自身の意見をあまり言わないので、何を考えているかわからないと思われることが多いです。

欧米諸国の人にとっては、「自分の意見を言わないこと」が恥ずかしいことのようです。

一方で、日本人は「自分の意見が間違っているんじゃないか?変な意見を言ってしまっているのでは?」ということが恥ずかしいことが故、「自分の意見が間違っていないと思った時にしか意見を言わない」傾向があるように思います。

このように、会話において意見を言うということにも価値観の違いがあり、それによってなにを恥ずかしいと思うかにも違いがでてきます。

では、バスケットボールに置き換えて考えてみます。

日本では、見るからに綺麗にできている(ミスのない)練習をすることが、良い練習と考えられていたのではないでしょうか。

しかし、海外の指導者は、ミスのない綺麗な練習は「何のための練習なのか?」と疑問に思うようです。

なぜならば、練習は「出来ないことを出来るようにする」ことと考えているので、ミスなく出来ている、課題や問題のない練習を反復していることに違和感を感じるのです。

もしかしたら、ミスなく綺麗にできている練習は彼らにとって「恥ずかしい」練習なのかもしれません。

日本のスポーツはクローズドスキルと言われる相手を想定しないスポーツ(器械体操やフィギュアスケート、マラソンなど)が強かったため、クローズドスキルのスポーツで強くなるための指導法が良い指導法として根強く浸透しています。

バスケットボールは相手によって技術を使い分けなければならないオープンスキルのスポーツなので、指導そのものの目的の違いを指導者は理解しなければなりません

ポイント
練習の目的の違い
オープンスキルのスポーツで大事な考え方
選手に課題を与え、解決を目指させること
クローズドスキルのような考え方
練習自体が綺麗にミスなく出来ること

【世界との差を痛感した指導者の役割としての意識】

10年前、弊社代表鈴木は、日本のサッカー指導者に混ぜてもらい、イタリアで開催されたサッカーのコーチツアーに参加しました。

そこで、「指導者の役割とは何か?」を深く考えされられたのです。

その育成勉強会では、選手にある技術を教え、その場で選手が出来ていなくても次々とメニューを変えて指導を進めていきました。

日本から参加していた指導者達は、「何故、選手たちが出来ていないのに、先に練習を進めてしまうのか?」と疑問に思ったのです。

その疑問を、日本人指導者達は、指導者ディスカッションの場でイタリアの指導者たちにぶつけてみました。

すると、逆にイタリアの指導者達は、怪訝な顔をし逆に次のように質問をしてきたのです。

「あなたたちは、指導者の役割は何だと考えていますか?」

その質問に日本の指導者達は答えに窮してしまいました。

そして、イタリア人指導者は続けて以下のように言いました。

「私たち指導者の役割は、選手に課題を与えることだと考えています。そして、与えた課題を解決する役割は選手の役割だと思っています。選手には次の日も同じ課題をやると伝えているので、きっと選手たちは明日までに考えてくるでしょう。」

弊社鈴木は、「ここに日本とヨーロッパにおいて、指導者の役割に対する考え方の差がある」と感じたのです。

日本人指導者達は、「出来ない子をできるようにしてあげること」が指導者としての使命と考えていたのではないでしょうか。

しかし、イタリア人指導者たちは、「選手に課題を与えること」が指導者としての役割であり、使命と考えていたのです。

ポイント
課題を与えることが指導者の仕事。課題解決は選手の仕事。

【広がる世界との差】

前項のように、指導者の役割を「選手に課題を与えること」と捉え選手育成していくと、指導者として選手に上手に課題を与えられるようになっていきます。

そのような指導者の下で育成される選手は、「課題を解決すること」が上手になっていくのです。

一方で指導者の役割を、「課題を解決すること」と捉え選手育成していくと、選手の課題を解決するのが上手な指導者になっていきます。

そのような指導者の下で育成される選手は、「指導者に課題を解決してもらうこと」が上手になっていくということです。

このような指導者としての役割意識の差が、5年、10年と時間が経つにつれ、選手自身の課題解決力、個人の打開力に大きな差を与えてしまいます。

特に世界代表戦レベルの試合となると、選手自身が状況を瞬時に判断し、解決していかなければなりません。

日本代表がワールドカップに臨んだ時にさえ、世界との差を痛感させられ、指導者の役割意識の重要性を再認識したのです。

指導者の役割
育成年代の指導者のマインドの違い
ポイント
指導者の指導者としての役割意識の差が、時間を経て選手個人の力に大きな影響を与える。

【日本が世界に追いつくためには?】

まず必要なことは、U12で「勝ちやすい方法を教えてあげることが良い指導者である」という意識からの脱却ではないでしょうか。これはU15でも同様のことが言えます。

そして、指導者は、「試合で指導者が勝たせてあげた勝利」と、「選手達が自ら考え課題を解決して手にした勝利」かを見極める力が必要となります。

育成年代を教える指導者へ伝えたいメッセージ

世界選手権を経て、あらためて「育成の質の違い」がもたらす影響を感じました。

育成を変えれば、未来が変わります。

そしてこの育成コンセプトを深めていくことの本当の意味での素晴らしさは、単に競技力向上だけでなく、いまの日本の教育が抱えている課題にも貢献できることなのです。

育成年代でスポーツを指導する指導者として、競技力を高めることと同時に、教育にも貢献するという成果を目指せることは素晴らしいことです。

われわれ、育成年代の指導者の役割とは何なのか。成果は何なのか。上質さは何なのか。この課題を皆さんと共有できたら嬉しいです。

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