「できるか、できないか」ではなく、「やりたいか、やりたくないか」

渡邊さんインタビュートップ

 ERUTLUCには、スクールで行なっている7項目の技能検定がある。それぞれ初級者向けの7級から高難度の1級までで構成され、すべてをクリアすると星をもらうことができるシステムだ。この7つの星に、ある条件を達成すると獲得できる幻のひとつを加えた8つの星を揃えると、『8スターズクラブメンバー』として表彰される。いわば、ERUTLUCの教えを完璧にマスターした“申し子”と呼ぶべき存在だ。

 

 栄えある第1号メンバーであり、現時点で唯一の達成者となっているのが、今回紹介する高校3年生の渡邊葵さん。『コーディネーションレイアップ』や『カップリングスキップ』など、バスケットボールや運動を行なう上で大切なスキルが詰まった各項目だが、1級ともなればクリアするのは至難の業。葵さんもすんなり達成できたわけではなかったと語る。

 

渡邊さんインタビュー画像02
渡邊さんインタビュー画像03
渡邊さんインタビュー画像04

 「私がとくに苦労したのは『テニスボールドリブル(壁当て)』の1級と『体幹・股関節』の1級で、すごく難しかったです。なかなかクリアできなかったので、できた時の喜びは大きかったです」

 

 ちなみにこの「体幹・股関節の1級」は練習を見守っていた母の祐子さんにも絶大なインパクトを残しており、「4つのボールの上に手足を乗せて、プッシュアップを3回やっている娘を見た時は衝撃的でした。まず、乗ることができないですよね。すごいことをやっていると思います」と、驚きを隠せない。

 

渡邊さんインタビュー画像05

コーチの方々と接してから、バスケへの熱意がさらに上がったように感じます (葵さん)

 

 葵さんが週に1回、ERUTLUCの練習会に通うようになったのは、中学1年生の終わりのことだった。小学3年生からミニバスケットボールを始め、中学校でもバスケットボール部に入部した葵さんだったが、技術面で壁にぶつかったことがきっかけだったという。

 

 「ミニバスの時はチームの中でも一番背が高かったので、身長で戦っていた部分があったんです。でも、中学校に入ると3年生の先輩とか、自分より10cmくらい身長が高い人たちもいて、今までやっていたプレーが通用しなくなりました。小学生の頃とは違うことをやらなければいけない、技のバリエーションを増やしたいと思っていた時期に、たくさんのコーチにいろいろな技術を教えていただけるERUTLUCに参加しようと決めたんです」

 

 小学生のミニバス時代、出張指導という形で何度かコーチを招いていたため、その存在を知っていたERUTLUC。「もっとレベルアップしたい」という一心で練習会へ通い始めてから、葵さんのプレーは劇的な広がりを見せた。

 

渡邊さんインタビュー画像06

 「それまではセンタープレーが中心だったので、ドリブルをついて外から中にドライブする機会があまりなかったんです。ERUTLUCに入ってドリブルとかパスとかいろいろなスキルを教えていただいてので、フォワードのような役割ができるようになりました。それはERUTLUCで得られたことですね」

 

 中学生以降はフォワードとしてプレーする葵さんにとって、ERUTLUCは技術面での土台を築いてくれた場所に当たるのだろう。

 

 母の祐子さんは「ドリブルが上手になってから、それまでよりも楽しそうに部活に行くようになった気がしていたので、通わせてよかったなと思いました」と、うれしそうに当時を述懐する。

 

 中学1年、2年時には東京都西地区のオールスターにも選出されるなど、メキメキと実力を伸ばしていった葵さんには、ERUTLUCという新たなコミュニティから得られる新鮮な日々が活力となっていた。

 

 「ERUTLUCには、もっとバスケがうまくなりたいという同世代の子たちが集まっていて、私も負けられないなとすごく刺激をもらいました。練習中も、もっとこうしたほうがいいんじゃないかと意見の交換もしますし、切磋琢磨できていると思います。」

 

「もうひとつ、自分たちと一緒に練習に参加するコーチの方々が、すごく一生懸命に熱意を持ってぶつかってきてくださるので、私もそれに応えたいという気持ちになりました。コーチの方々と接してから、自分の中のバスケへの熱意がさらに上がったように感じます」

 

渡邊さんインタビュー画像07
渡邊さんインタビュー画像08
渡邊さんインタビュー画像09

娘が弱音を吐く姿を見たことがありません(祐子さん)

 

 本来、ERUTLUCは中学3年生で卒業となるが、「まだこの練習会で学びたいことがある」と、高校進学後も継続して通い続ける許可をもらった。そして今年7月には、初の『8スターズクラブメンバー』という快挙を達成。ERUTLUCでは毎週練習後、コーチが選手たちに『子どものスポーツのすすめ』という冊子の内容を1ページずつ紹介している。

 

 冒頭に記述した「ある条件を達成すると獲得できる幻の星」とは、その日に紹介された話を家に帰ってアウトプットし、家族からサインをもらう。これを全ページ(約60ページ)分集めることでクリアできる、というものだ。

 

 このような試みは、バスケットボールの技能だけではなく、子どもたちの教育にも力を注ぐERUTLUCならではと言えるだろう。中には大人でも理解するのが難しいのではと感じる話もあるが、「コーチがわかりやすく説明してくださるので、家族には話しやすかったです」と葵さんは笑顔で振り返る。

 

 とくに印象に残った話を訪ねると、『サーカスの象』という答えが返ってきた。

 

渡邊さんインタビュー画像10

 「象はすごく力が強いのに、サーカスの象はつながれたロープを引きちぎって逃げたりはしないというお話です。」

 

「なぜ逃げないかというと、赤ちゃんの頃にすごく重い重りをつないで、どんなに逃げようとしても逃げられないようにしておいたからです。それを繰り返すうちに、やがて大人になっても足にロープを括りつけられるだけで、動けないと勘違いしてしまう。勝手に自分の足に重りをつけて限界を決めてしまったら、新しいチャレンジも成功することもできないというのがすごく心に響きました。」

 

「最初からできないと決めつけるのではなく、うまくいくかわからなくてもいろいろなことにチャレンジしてみようと。『できるか、できないか』ではなく、『やりたいか、やりたくないか』。この話を聞いてから前を向くことができたので、すごく印象に残っています」

 

渡邊さんインタビュー画像11

 理路整然とした説明の中にも、この話から何を感じ、何を得たのかを熱っぽく話してくれたことで、葵さんがこの話に出会った時の感動が伝わってくる。「毎週、家で娘の話を聞くのが楽しみでした」と語る母・祐子さんの気持ちが、少しだけわかったような気がした。この『サーカスの象』をはじめ、ERUTLUCでの教えが大学受験を控える現在の葵さんの力となっていることは想像に難くない。

 

 「本当によくやっていると思います」

 

 葵さんの練習を見つめていた母の祐子さんが、ぽつりとつぶやく。進学校に通い勉強に打ち込みながらも、バスケットボールに青春を捧げてきた愛娘の奮闘ぶりを、誰よりも近くで見てきた。

 

 「高校の部活は夕方の練習以外にも、朝練、昼練があったんです。部活が終わったら家に帰ってご飯を食べて、夜の12時まで勉強して寝る。たぶん、睡眠時間は5時間くらいだったと思います。部活を引退してからも自分で体育館を取って、木曜日と土曜日の夕方に練習をしています。それは中学校の時からずっと続けていますね。勉強も『もうやめたほうがいいんじゃないの?』と言いたくなるくらいやっています。娘が弱音を吐く姿を見たことがありません」(祐子さん)

 

渡邊さんインタビュー画像12

 「なりうる最高の自分を目指す」というERUTLUCのテーマを体現する葵さんが、『8スターズクラブメンバー』の第1号となったのは、必然だったのかもしれない。「私がここまでバスケをやってこられたのはERUTLUCに通ったおかげでもあるので、育てていただいたコーチの方々、一緒にやってきた選手のみんなにすごく感謝しています」と葵さんは締めくくった。

 

 家族の愛に包まれ、最高の仲間に囲まれた葵さんという名の輝く星。その足元に、重りやロープは見当たらない。無限大の明日へ、どこまでも高くジャンプする。

 

渡邊さんインタビュー画像13
PROFILE

名前:渡邊葵(ワタナベアオイ)
生年月日:2001年5月21日生まれ
出身:東京都小平市
PHOTO_長谷川 拓司TEXT_伊藤 翼


最近の記事

  • 関連記事
  • おすすめ記事
PAGE TOP