「少し前に見た時と比べて、生徒が急成長しているなと感じることってよくあるんですよ。
自分が関わることで生徒たちにポジティブな影響を与えられているのであれば、それが何よりの喜びです。
たとえば、練習会の何日か後に部活動で自信につながるようなプレーができたり、数年後、高校や大学へ進学した時にここで練習したことが役に立ったり。少しでも貢献できていればうれしいですね」
目を輝かせながらERUTLUCでの指導のやりがいを語るのは、小林将也コーチ。
現在は都内の大学に通う3年生で、週に5日、アルバイトという形で主に小学校中学年から中学生までの生徒に指導を行なっている。
2017年の終わりにERUTLUCへ加入した小林コーチは昨年、コーチ間の投票による表彰で「ベストルーキー賞」を受賞した。
「約70名のコーチが、『この人に教わりたい』というコーチをフォームで投稿するんですけど、選んでいただいてすごくうれしかったです。
最近、ようやく自分の中で指導のやり方が少し見えてきたような感じはするんですけど、それも本当にここ何ヵ月かの話ですね」
議論を重ねアドバイスをいただく中で、僕の指導ができていったのだと思います
地元の石川県で小学3年生からミニバスケットボールを始めた小林コーチは、すぐにその魅力に取りつかれた。
「どうしても教わりたかった」という黒島啓之監督が率いる金沢市立西南部中学校へ入学。
3年間、黒島監督の元でバスケットボールに打ち込み、県大会で準優勝の実績を残した。高校はかつて全国大会ベスト16の実績があり、Bリーガーも輩出している名門・金沢高校へ進学。個人として石川県代表にも選ばれ、国体で準優勝を収めた。
大学進学を機に上京すると、中学校時代の恩師・黒島監督からERUTLUCの鈴木良和代表を紹介され、指導員を始めた。
大学の部活動で選手としてバスケットボールを続ける選択肢も頭をよぎったが、「自分が将来、どんなことをやっていきたいかを考えた時に、人の役に立つことでバスケットボールに携わりたいという思いがあった」と、コーチの道を志した理由を語る。
しかし、ERUTLUCで目にした指導法は「今までの価値観が一気に変わった」と感じるほどの衝撃を受けたという。
「それまでは自分の中に、『指導とはこういうものだ』という一種の固定観念があったんです。でも、ERUTLUCの指導は型にはまっていなかったんですよね。叱って選手を動かすのではなく、選手の自主性を尊重して主体的に動かすような促しとか、些細な言葉がけとかが緻密にあって、これはすごいなと思いました。同時に『本当に僕もこんな指導ができるようになるのかな?』という不安もありました」
小林コーチが懸念した通り、指導を始めたばかりの頃は苦戦をしいられる毎日だった。綿密に組まれたERUTLUCの指導プログラムを必死で勉強したが、「いざ現場に立ってみると、僕が事前に考えている通りに選手が練習してくれるとは限らないんです」と、机の上だけではわからないコーチングの難しさや奥深さを痛感した。目の前の壁を打開することができたのは、先輩コーチの存在が大きかったという。
「フィードバックと言って、練習が終わった後にもっとこうしたほうがいいよねとか、今日のこれはよかったよとか、コーチ同士で話し合う機会があるんです。コーチングって正解があるわけではないので、週5回、たくさんのコーチの方々と議論を重ねたりアドバイスをいただく中で、僕の指導ができていったのだと思います。コーチングのレベルや指導年数に関係なく、ERUTLUCのコーチはみなさんフランクに接してくださるんです。考え方やスキルの部分でも、上からではなく同じ目線で話を聞いてくれますし、コーチ同士の関係性は非常に魅力的だと思います」
この先もバスケットボールに携わって生きていきたい
生徒と接しながら経験を積み、先輩コーチからさまざまなものを吸収してスキルを磨いてきた。
コーチとしてのキャリアはまだ2年と短いながらも、非常に濃い時間を過ごしてきたと言えるだろう。「理念と呼べるほどのものではないのですが」と謙遜した小林コーチが、指導を行なう上で心がけていることは何なのか。
「もちろん技術的なところも大切ですけど、僕がとくに重視しているのはメンタル面です。小・中学生は考え方とか習慣が形成される時期なので、マインドをどのように調整していくかは本当に気を遣います。
たとえば、ある選手があるプレーを選択して、ミスが起きたとしますよね。もちろん問題点があれば指摘しますが、選手の意図もありますし、単に否定するだけではダメだと思うんです。」
「またその技術を使わなければいけない場面が来た時に、使えない可能性も出てきてしまうと思うので。しっかり選手の話を聞いてその時の状況も考慮して、臨機応変に対応したいと思っています。
あとは、選手の枠組みを小さくしないことでしょうか。コーチに言われたことしかできない、まわりと同じことしかできない枠にはまった選手ではなく、しっかり自分の考えを持って行動できる選手を育てていきたいなと思います」
大学3年生の小林コーチは現在、将来を考える時期を迎えている。
「この先もバスケットボールに携わって生きていきたい」と骨子は決まっているが、具体的な進路についてはいくつかの選択肢が浮かんでいるという。
「今と同じように育成年代を指導して、これからの日本のバスケットボール界に貢献できたらなという考えもあるんですけど、Bリーグなどのトップチームのコーチングにも興味があります。
もちろん簡単なことではないので、自分のスキルアップのために1~2年は使ってもいいかなと考えていて。具体的にはプロのチームでインターンをするとか、海外で語学の勉強をしながら生活するとか。選択肢がいろいろあるので、どうしようかと毎日考えています。
ただ、どんな年代を教えるにしても人とのコミュニケーションという点においては一貫しています。ERUTLUCはコーチとして勉強できるプログラムが非常に充実しているので、それが力になっています」
大好きなバスケットボールに携わるという道がはっきり見えたのも、ERUTLUCがあったからだ。「ここがなければ、今はたぶんまったく違うことをやっていたと思います。こういった環境を与えてくださって、本当に感謝しています」と小林コーチ。生徒だけではなくコーチの新たな可能性も見つかるのも、ERUTLUCならではと言えるのかもしれない。